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スタッフに夢や目標を与える組織のつくり方(後編)
朝、出勤しても誰も挨拶を交わさず、上司や同僚とのやり取りはメールのみ...、今、さまざまな職場でコミュニケーション不全が深刻化しています。『ワクワク楽しい歯科医院』をコンセプトに掲げるヨリタ歯科クリニック理事長の寄田幸司さんは、その状況を打破するには「スタッフが夢と目標を持ち、感動と感謝があふれる職場をつくることが必要」だといいます。では、どうすればそのような職場を実現できるのか。クリニックの改革を成功させ、2007年には『患者が選ぶ病院ランキング(※)』で1位に輝いた寄田幸司さんに伺ったインタビューの後編をご紹介します。
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ヨリタ歯科クリニック ( http://www.yorita.jp/)
1991年開業。「患者様に愛される地域一番の歯科医院」を目指し、開業当時から順調な経営を続けていたが、2002年に経営理念を大きく転換。「スタッフや取引先に愛される、ワクワク楽しい歯科医院」を理想としてクリニックの全面改装と運営の改革に取り組み、近隣の他府県からも通う患者がいるカリスマ歯科医院に。「患者が決めた!いい病院ランキング・近畿東海版」(オリコン・エンタテイメント刊)では歯科部門(ムシ歯)で№1の評価を得る。またベストセラーとなった「不機嫌な職場」(講談社刊)の中では、グーグル、サイバーエージェントと並び、協力し合う組織を実現している企業の一つとして紹介される。
KOJI YORITA
4年間の勤務医を経て、1991年に大阪府東大阪市でヨリタ歯科クリニックを開業。2002年にはワクワク楽しい歯科医院実践会を設立し、会長に就任。全国に"ワクワク楽しい歯科医院"を広げる活動に注力している。
※ワクワク楽しい歯科医院実践会 http://www.wakuwakufun.jp/ -
成功パターンを、再現性のあるシステムに落とし込んでいく
────寄田先生は、さまざまなイベントや企画を成功させてこられましたが、過去にはうまくいかなかったものもあったのでしょうか。
あります。待合室で患者さんに俳句をつくってもらう、料理教室を開くなどしましたが、これは長くは続きませんでした。
────アイデアのヒット率はどれくらいなのでしょう。
イベントだけを見れば単発で終わったものもありますが、集客や売り上げにつなげるという意味でいえば、ほぼ成功しました。本当に柱にしていきたい企画はかなり綿密に計画を練っていますので、満足いく結果が出ました。私は夢ばかり語っているわけではなく、実際には目標をすべて数字に落とし込みます。計画も細かく日付まで決めて、きっちりやります。だから、結果的に成功しました。
イベントだけでなく、医院経営も同じです。1カ月の来院者数や売上高をすべて記録し、短期間で業績があがる仕組みをつくっていきます。ヨリタ歯科にはグループ医院がありますので、そこにも同じやり方を導入して成功しています。大阪、京都、奈良とエリアがまったく違い、テナントや一軒家など物件も違いますが、すべて成功しています。
コンセプトを明確にして患者さんのターゲットを絞り、一緒に働きたいスタッフも明確にする。そして、スタッフ教育や患者さんへのカウンセリングシステムなど、独自のやり方を構築します。もちろん、開業前には私たちの医院で作成している冊子も共有します。ホームページも立ち上げる。他にはない、オリジナリティあふれた様々なことをやっていくわけです。
そのことで、私が直接運営しているわけではありませんが、圧倒的な数字が生まれています。非常に驚かれます。結果はやる前に決まっています。人と違うことをやっているので、違う結果が出るのです。答えはシンプルです。言い換えれば、オープン前の準備にどれだけ時間をかけるかが大切です。これだけ歯科業界が厳しい中、ここまで短期間に業績が上がるにはちゃんとした理由があります。
────ヨリタ歯科クリニックで成功されたパターンを、ほかの人にも習得可能なシステムにすることで、成功を再現できるのですね。
そうです。うまくいったことを形に残し、マニュアル化しておくことは、絶対に必要です。
経営者の本気・本心・本音が、システムに命を吹き込む
────しかし、一般企業に置き換えて考えると、戦略やシステムを導入しても業績が改善しない企業も多くあります。
経営者が本気、本心、本音でやっているかどうか。それによります。手法を真似るだけでうまくいくなら、誰でも成功できます。でも実際には、経営者が自分の言葉で夢や目標を語らないと、人は動きません。経営者が夢や目標を語り、スタッフ一人ひとりも自分の夢や目標を持つ。簡単に言えば、指示するのではなく見本を見せるのです。指示待ち人間を作るのではなく、自立型人間を作ることが成功の近道です。
────どうすれば、経営者だけでなくスタッフも夢や目標が持てるようになるのでしょうか。
普段から目標を考える習慣を持つことが大切です。私たちは「年間行動目標」を立てています。具体的には、毎年年末に翌年の目標を書いてもらうのです。20代や30代前半の若い人たちが、みんなビッシリ書いてくれます。普通は、なかなか書けません。しかし、私たちのスタッフは書ける。それは、普段から目標を持ち行動しているからです。頭の中にないことは、書けません。
────どうすれば、日ごろから目標を意識させることができるのでしょう。
まずは、目標設定をするクセをつけることです。大事なのは「目標は必ず叶う」ことを知ってもらうのです。目標を紙に書いて頭の中に落とし込んだら、必ず叶うんだよ、と。といっても、叶わないことも多いでしょう?(笑)。人生はそんなに甘くないぞって。だから私が実践を通じ、叶うところを見せていくんです。すなわち成功体験をして頂くのです。
私たちの医院のイベントから新しいグループ医院のオープンまで、小さなことから一大事業まで、「こうすれば叶うんだ」とみんなが見て知っています。それも一人でではなく、みんなで協力して、そして楽しみながらやるから叶うんだということを。
スタッフが記入した、実際の年間目標設定用紙。「自身の行動分析」「具体的行動目標」など、細かな記入欄がすべてビッシリと埋められている。
本当に変わりたいという気持ちがあれば、人は変われる
────中には、自分の夢や目標が何かわからないという人もいらっしゃるのではないですか。
最初は、わからない人がほとんどです。「先生が成功するのは、スタッフの意識が高いからだ」とよくいわれるのですが、実は反対です。この医院に応募してくる人たちは、自分に自信がない人が多いです。私たちの医院のホームページを見て、ここなら自分が変われるのではないかと思って、応募してくるのです。
────そういった方々を採用するかしないかというのは、どこで判断されるのでしょう。
ここで学びたいという気持ちが本当に強いのかどうか、ですね。どうなりたいのかはわからないけれど、とにかく自分を変えたいということでもいいのです。例えば、「開業に向けて自信はないけど、ここで3年間、死に物狂いでやることで、自分を変えたいのです」という人は、私は採用することが多いですね。
その代り厳しいです。ハッキリいいます。私たちはプロですから。技術に不足があれば厳しく指摘します。入社後もセミナーや筆記試験を受けてもらいます。普通の医院に比べて、かなりハードだと思います。でも、「そこまでしてでも変わりたい」という人は、必ず変わります。私たちの医院にはそういう風土、土壌があるのです。
中には、私たちのノウハウだけを学んで持ち帰りたいという動機で応募してくるドクターもいますが、ノウハウには、その人の思いが入っていなければ意味がありません。真似だけでは成功しないと思います。ですから「申し訳ないけど、先生には無理です。」と断ることもあります。
────人を育てるコツのようなものはありますか。
いやこれはもう日々反省です。この人はもっとできたはずなのに、ということはよくあります。それはやはり、私のせいなんですね。私の中に、本当にその人を変えてあげたいと思う真剣さが足りないから、変わらないんだと思います。「この人はできない」とトップにレッテルを貼られたら、誰も変わろうと思わないでしょう。
でも本気で正面を向いて話せば、人は自分で変わっていきます。採用後の育成は各セクションに任せていますが、中にはうまくいかない人がいます。そのときが私の出番です。本当にやりたいことは何なのか、どういう人生を送りたいのか、本人ととことん話し合います。そうすることで、最終的には自分で変わっていきます。「私は本気でやる」と気持ちが決まったとたん、人は突然変わります。
そのときメンバーから、「やはり院長はすごい」といってもらえます。あれだけみんなで関わっても変わらなかった人が、院長が本気で話したら変わったと。それが、私の仕事です。やはりみんな、トップに認められたいという気持ちがあります。トップがそこまでいってくれるなら、頑張ってみようと。私は逃げません。何故なら人には無限の可能性があるからです。そしてその可能性を閉ざすのは、自分自身なのです。私は、どんな時でも励まし続けます。
経営者も組織も、失敗から学び、成長する
────順調に成功してこられましたが、これまで壁に当たられたことはないのでしょうか。
壁には、しょっちゅう当たりますよ(笑)。例えば、今では採用はチーフやリーダーに任せていますが、それは過去に私が採用に失敗したことがあったからです。
何人もの応募者から私が一人だけ採用して、残りの人は全員断ったことがありました。それなのに、その人が一週間も経たないうちに辞めてしまった。そこで慌てて不採用者の一人に連絡を取ったら来てくれることになりました。その彼女がすごく仕事のできる人だったのです。優しくて気配りもできて手先も器用で、申し分ない。そのとき「人を見る目がない」と、スタッフからはっきり言われました(笑)。
それ以降は、私は面接に立ち会わないと決めて、採用に関するシステムを全面的につくりました。電話でのチェックリストから一次面接での質問事項、二次面接で確認することまで全部書き出して、「後はチーフや主任を中心にみんなで選考してください」と任せました。その結果、すごくうまくいくようになりました。
みんなで選んだ人だから、みんなで育てるようになった。これが一番の効果でした。必死で一人前にさせようとします。私が勝手に選んだ人なら、「なぜこの人を採用したんですか」とそこから始まって、なかなかうまくいきませんでした。しかしみんなに任せるようになってから、すっかり楽になりました。
失敗は、いっぱいあります。私たちの医院のシステムは、失敗を経験してそれを改善する過程で生まれたものも多数あります。
────失敗を失敗のままにせず、原因と改善策を考えることが大切なのですね。
そうです。うまくいかないことがあるから、成長できるわけでしょう。失敗は、まだ成長の余地があることの証。チャンスなんですね。
経営にいいわけは無用。すべてを「自分事」として捉える
────非常に前向きな捉え方ですね。
何事も感じ方一つ、なんです。同じことが起こっても、それを相手のせいにするのか、自分のせいにするのか。今、歯科業界はものすごく厳しい状況に陥っています。全国にコンビニの1.5倍の歯科医院があるといわれるくらい医院が増えて、1日の来院者数の平均が20人を下回るところもたくさんあるんです。
それを時代が悪い、行政が悪い、場所が悪いと、自分以外の物事のせいにする人もいます。いい受付がいない、いい衛生士がいないと人のせいにするのです。でも、その場所は、誰が選んだでしょう。その受付や衛生士は、誰が採用したのでしょう。すべて、自分が選んだわけですよね。
場所が悪いなら移転すればいい。スタッフに問題があるなら採用し直すか、今いるスタッフを教育すればいいじゃないですか。でも、何もしません。
────他人のせいにしている間は、発展はないのですね。
そうです。自分を信じ、プラスのことを口にするようにしているか。人を信じ、いつも励ましているか。未来を信じ、理想の姿をみんなに語っているか。それをしないで組織を変えたい、スタッフを成長させたいといっても、変わるわけがありません。
例えば、先ほどお話した年間行動目標にしてもそうです。これは、原田隆史さんの『カリスマ体育教師の常勝教育(※)』という本に載っていたやり方で、私は「これだ」と感動して、すぐに取り入れました。そして目標を持つことの大切さを、スタッフにも熱く語りました。
何十万部と売れた本ですから、読んで感動した人はほかにもたくさんいるはずです。それをやるか、やらないか。やることの意味をスタッフに伝えるか、伝えないか。一度やって終わりにするのか、毎年やり続けるのか。成功するかしないかというのは、その差しかないと思います。才能ではありません。行動と持続力です。
※『カリスマ体育教師の常勝教育』(原田隆史著、日経BP社刊)
リーダーの仕事は、関わるすべての人を幸せにすること
────経営者は孤独であると、よくいわれます。寄田先生は、孤独をお感じになることはありますか。
私は、医院を改革する前の方が孤独でした。仕事中は仲良く振る舞っていましたが、診療が終わると院長室にこもっていました。以前は、本当に孤独でした。
今は、みんなと一緒にワクワクやることができますし、グループ医院には私と同じ院長の立場の人が何人もいます。院長が集まるトップミーティングやチーフクラスも参加する経営者ミーティングといった場を設けているので、今後の夢をみんなで語り合うこともできます。また月に1度、各パートナー医院のドクターを集めて夢を語る「ヨリタ塾」という塾も開いています。だから、私は1人じゃないということを、すごく感じています。いつも周囲の人から、勇気と元気をもらっています。
────ご自分から夢やメッセージを発信されているから、寄田先生の周りに人が集まるのですね。
そうです。言葉にして初めて私たちの考えていることが伝わります。そして「そこまで熱く語るなら、一緒にやりたい」という人が集まるのです。「以心伝心」といいますが、やはりいわないと伝わらないと思います。もちろん反発されることもあります。いろいろな意見をいわれることもあります。しかし、それを怖がらずに、まずは「話す」ということが大事だと思います。
────理念や夢を語っても、社員がついてこないと嘆く経営者の方もいます。
どこまで本気で夢を語っているのか、ではないでしょうか。売り上げを上げたいがためだけなのか、心から思っているのか。その違いは態度に出ます。周囲も敏感に感じ取ります。私利私欲で動いている場合もだめでしょう。トップだけが恩恵をこうむってスタッフは報われないということでは、誰もついてきません。夢や目標は、みんなが賛同するものでないといけないと思います。
────医院のサイトに掲載されている寄田先生のコラムには、「リーダーの仕事は夢に周囲を巻き込むことではなく、関わるすべての人を幸せにすることである」というお言葉もありました。
最近は、そう思うようになりました。私も最初のころは、自分の夢にみんなを巻き込もうとしていたんですが、それではついて来ないんですね。巻き込もうとし過ぎると、かえって引いてしまうのです。でも、みんなを主役にするような夢なら、みんなが一つになれます。人が集まってきます。人を輝かせるということが大切です。
もう一つ、夢は楽しみながら叶えるのだと、最近よく思います。夢というのはとてつもなく大きなもので、人の何倍も努力しないと実現できないというのでは、よくないと思うのです。例えば、私が必死で頑張って夢をつかんだとしても、それを見ている周りの人が「あれだけしないと、夢は叶わないのか」と思ったら誰もついて来ないでしょう。
そうではなくて「こんなに楽しいことならもっと早くやりたかった」と、みんなでワイワイやりながら叶うのが夢だと思います。極端にいえば叶わなくてもいいんです。途中で違う夢になったり、目標を少し下げたりね。みんなで楽しみながらやることが大事です。楽しいから続けられる。「もっとこうしよう」とか「一緒に頑張ろう」と思えるのでしょう。しんどかったらできないですよね。
────しかし、「目標管理制度」など「目標」という言葉には、「辛い」というイメージがつきものです。
そうですね。でも、本当は辛いものではありません。夢や目標って、楽しいものです。
────寄田先生の今後の夢は何ですか。
歯科業界の人材育成ですね。歯科業界全体が夢を持てるような仕組みをつくろうと考えています。私立の場合歯科医になるには大学の入学金、寄付金、学費や下宿代など総額6000万円近くかかることもあります。にも関わらず開業してもなかなか成功できないのが現状です。それに、どんどん国家試験が厳しくなっていますから、みんな試験に合格するだけで精一杯。どういう歯科医になりたいかを考える余裕がないのです。
その若い人たちに、私は夢を与えたいと思います。例えば、大学卒業後の研修カリキュラムをつくって、夢を叶えている素晴らしいドクターのところで研修してもらうとか。「こんな医院をつくりたい」という夢のある若いドクターがどんどん開業すれば、歯科業界から離れていった歯科衛生士や歯科技工士といった専門職も、また戻ってきてくれると思うのです。業界が元気になるお手伝いが少しでもできればと。私のこの夢、実現できると思います。何故なら、あきらめず願い続ければ必ず叶うと、信じきっていますから。
────夢のあるところに人が集まり、笑顔が増える。それを教えていただいたように思います。ありがとうございました。