2008年6月アーカイブ ..

ドコモ・テクノロジ株式会社
前代表取締役社長 木下 耕太さん

| | コメント(0) | トラックバック(0)
  • <$MTEntryTitle$>
    (現 東日本電信電話株式会社 監査役)

    「見える化」で成功した社員の意識改革(後編)

    「組織を変革するには、まず社員の意識変革から」とはよく言われることですが、長年の間に染み付いた仕事への姿勢は一朝一夕では変えられないもの。人事制度の変更や教育体制の刷新などのさまざまな手を尽くしても、思う効果が得られない企業も多いのではないでしょうか。社員の意識は、どうずれば改革できるのか。ドコモ・テクノロジ株式会社 前  代表取締役社長、木下耕太さん(現 東日本電信電話株式会社 監査役)に伺ったインタビューの後編をご紹介します。

  • ドコモ・テクノロジ株式会社http://www.docomo-tech.co.jp/

    2001年4月に、NTTドコモの研究開発業務の支援を行なうモバイル技術のスペシャリスト集団として設立。第3世代移動通信システム(IMT-2000)や第4世代システムに関する研究サポート、海外技術移転業務、知的財産の管理業務などを手がける。

    KOTA KINOSHITA

    1947年生まれ。工学博士。1971年に慶應義塾大学大学院修士課程電気工学専攻修了、日本電信電話公社に入社。一貫して移動通信システムの研究開発を手がける。NTTドコモ研究開発副本部長時代の2001年4月にドコモ・テクノロジ株式会社を設立し、NTTドコモ研究開発副本部長 兼 ドコモ・テクノロジ株式会社社長となる。2001年11月からはNTTドコモ研究開発本部長 兼 ドコモ・テクノロジ株式会社社長となり、2004年6月からドコモ・テクノロジ株式会社社長を専任。2008年6月にドコモ・テクノロジ株式会社社長を退任し、東日本電信電話株式会社監査役に就任。現在に至る。

  • トップが自ら、体を張って改革を先導

    ────下請け意識を脱出するという社長の改革に対して、社員の皆さんの当初の反応はどのようなものでしたか。

    「何をバカなこと言うんですか」「とにかく指示された通りに試験をすればいいんです」と言う者がほとんどでしたね。「現状を破壊するんですか」と言うから、「そうだよ」と。

    ────そんな風に言う方も、いらっしゃったのですか。

    ほとんどがそうでしたよ。ですから、とにかくデータを取って、試験と品質の関係を把握するということが1つ。それから、事業部長や部長クラスは、社長室に呼び出して何度も話ました。「ユーザーに訴求しない試験をやって、それでヨシとする。そんなことでは、このグループは生きていけない。世間の普通の体質に戻さないといけないよ」と。

    そうして納得するまで何時間も喧々諤々とやって、しぶしぶ戻って行き、1カ月後にまた反論してきて、こちらもまた「ダメだ。やれ」と言う。その繰り返しです(笑)。3年ほど前には「ダイレクトコミュニケーション」といって、全社員と10人ずつ話したこともありました。半日ディスカッションして、一緒に飲んで、「とにかく言いたい事を言え」とやったんですが、それはもう疲れてしまいまして、今はせいぜい部長クラスまでですが(笑)。

    ドコモ本体のトップにも、直接話をしに行きましたね。「ユーザーに影響しないバグは、ご了承ください。そうでないと、現場は試験項目を削ることができません」と。

    ────そのように社長が明確な姿勢を示されることで、社員の方々も安心してこれまでのやり方を変えることができるのですね。

    「もしバグが出て、それが問題になったらどうするのか」と怖がる連中には、「そのときは俺と事業部長が謝りに行くから。現場には落とさないよ」と言うんですよ。

    ────社長はなぜ、グループ内の従来の仕事の進め方とは異なる考えを持っておられるのですか。

    答えになるか分かりませんが、私は働くことが嫌いなんです(笑)。普通なら夕方の5時で終わる仕事を夜中の12時までやって「ああ、仕事した」と言ってもね。それにリターンがあればいいけれど、ないならやめようと。

    ────非常に合理的ですね(笑)。

    99.9%までできているものを、残りの0.1%の精度を高めるには、大変なコストと時間がかかる。ユーザーがその0.1%を求めていないなら、それは自虐的なだけなんですよ。

    ────社員の方々の意識が変わるには、どの程度の時間がかかったのでしょうか。

    雰囲気が変わってきたのは、3年ほど前からですね。利益を追求する姿勢は最初からできたのですが、ドコモに積極的に提案し、その提案が聞いてもらえるというアクティブな関係になってきたのは、ここ2年ぐらい。データや経験をいろいろと積み重ねていくことで「こうしたらいいんじゃないですか」という提案ができるようになってきたんですね。

    業務を標準化し、組織の効率を高める

    今は数値管理をさらに進めて、事業部間で横並びの比較ができるようにしたいと考えています。この人は交換屋(交換技術者)、この人は無線屋(無線技術者)と、通信会社にはいろんな技術者がいますが、みんな違う基準で話をしているんです。なぜ同じ数値で比べられないのかと聞いても、「歴史が違いますから」と言う。

    しかし交換装置も無線装置も、ハードウェアがあってOS(基本ソフト)があって、その上にソフトウェアが載っているという構造は同じ。それを横に並べてみようというだけの話なんですよ。確かに以前は違っていたのですが、最近はツールが汎用化していますから、違うという説明はもうつかないんです。ま、そんなことを言うから私は嫌われるのですが(笑)。

    ────なぜ、揃える必要があるのですか。

    1つは、大げさに言うと説明責任のためです。例えば株主総会で、「なぜ同じ手法にして効率化しないのか」と聞かれたらどうするのかということです。仮に株主からそういう質問を受けた時に、どう説明するのかということなんですね。同じアーキテクチャー(設計思想や基本設計)でできるはずのものが、歴史が違うから同じにはできませんでは、説明にならないんです。

    もう1つ、たこ壺的な仕事のやり方をしていると、事業部間の人事交流がしにくくなるといった問題も起こります。今、「若い社員は3年で部を動かせ」と指示していまして、本人たちも変わりたいと言っているんですが、3年も経つと戦力になっていますから取られるのは嫌なんですね。それはもう、抵抗があります。

    ですから、「抵抗する事業部長がいたら、そいつを動かせ」と(笑)。今も、無理やり引きはがしてかなりの人事交流を行っていますが、標準化が進めばそういったこともやりやすくなるはずです。

    ────現場の皆さんは、新しい課題に直面されているのですね。

    逆らえない流れといいますか、ここまで部品が汎用化すると「無線装置と交換装置は、ここがこう違います」といっても、それはすべて言い訳でしかない。どこかでリセットして、違う切り口で見てみようということなんですね。絵を描くには、シンプルなものがベストですから。

    ────具体的には、どのようなステップで標準化されるのですか。

    何かの仕組みをバサッと押しつけるようなやり方では誰も動きませんので、まずはお互いに情報交換。みんなたこ壺に入っていますので、お互いのやり方を知らないんですよ。ですから「交換のやり方を無線に紹介しろ」、「無線のやり方を交換に紹介しろ」と。そうするとエンジニアですから、本当にいい手法だと思えば、「やり方を揃えろ」というこちらの話も、考えてみようかなと思い始めるわけです。

    ────相互理解のための仕掛けもされているのでしょうか。

    しますね。経営会議のあと、事業部長だけを集めて宿題を出しています。「担当事業部の、このやり方を他事業部に紹介しろ」とか、「横並びで絵を描け」とかね。そうやってみんなから集めたものを並べて見ると、例えば同じ物を呼ぶにしても、まず言葉が違うということからわかるんです。「そちらではこれを、こう呼ぶんですか。」とかね(笑)。

    ────現状をテーブルに乗せて明らかにするというのは、数値管理の考え方と共通していますね。

    そう、その通りです。そうしないとみんな、自分のたこ壷から出ませんからね(笑)。その状態で議論しても噛みあわない。「お宅ではそうかもしれないけど、うちではこうだ」とかね。まずは相互理解が大切なんです。

    そうして、揃えるときには一番低いところに合わせるのではなくて、各事業部の一番いいやり方を採用する。これを私は「いいとこ取り」と呼んでいるのですが、品質基準にせよ管理の方法にせよ人財の要件にせよ、ベンチマークした中で一番いいものに統一できるはずなんです。

    ────相互理解の効果は出ていますか。

    無線技術者が交換技術者のツールを使うなど、少しずつですが効果は出ていますね。

    短期的なロス(損失)を取るか、長期的なゲイン(利得)を取るか

    ────そういった相互理解には、どれくらいの時間が必要なのでしょうか。

    標準化への取り組みは3年近く前から始めていますので、時間はかかりましたね。

    ────長年の習慣や意識は、そう簡単には変わらないということでしょうか。

    変わりませんね。事業部間共通の指標でデータ取ろうにも、その元になる基礎データがないということもありますし(笑)。事業部ごとに基礎データの定義が違うので、まずはそこを合わせる作業が必要になるんです。「じゃあ、1年かけて基礎データを取り直すか」とかね。

    ────もどかしく思われることも、あるのではないですか。

    早く変わって欲しいとは思いますが、ある日ピシッと決められるほど、答えは明確ではないんですね。バイブルがあるわけではありませんから。まずは相互理解を進めて、データを取って。それをよく見て、比べて。どの事業部のやり方がいいのか、試行錯誤を重ねながらお互い納得できるものを見つける。そうするためには、多少の時間はかかりますね。

    ────標準化するにあたって、現場の効率が過渡的に落ちるといったロス(損失)もあるのではないですか。

    それはあるでしょうね。あっても、それは乗り越えて行けばいいことです。

    ────事業部間の人事交流にしても、熟練した技術者を他事業部に移すことには、やはりロスが伴います。

    ロスはありますよ。それは短期的なロスと長期的なゲイン(利得)、どちらを取るかということです。子どもをずっと手元においておきたいというのは、誰しも思うことですが、それは短期的なロスしか見ていない発想です。

    ────短期的なロスは、長期的なゲインのために必要なコストだということでしょうか。

    そうです。

    信じられる未来があるから、社員は頑張れる

    ────数値的な短期目標とは別に、長期的な目標はどのように描いていらっしゃるのですか。

    長期的には、2つの目標があります。1つはもっと上流工程を手がけたいということ。今は、ドコモがスペックを決めてメーカーに発注し、試験段階から当社が参加していますが、現場に言わせれば「それは受け身だ」と。「スペックの決定にも関わりたい」「システム全体を手がけられるようになりたい」という声があがっているんです。

    ですから、「分かった。順次、上に登って行こう」と。いわば、意思決定する仕事がしたいという、それはいいことですからね。「どんどん力をつければ、できるようになるよ」と言っています。

    実際、すでにシステムの一部は一括受注で、仕様作りからすべて当社へ移管しているんです。ドコモ本体は、新しい3.9世代(※)といったものの仕様作りを手掛けていまして、そこにも当社の社員を出向させています。

    ※NTTドコモのFOMAに代表される第3世代の携帯電話を高度化したもの。

    ただ、全員が上流工程を目指したいわけではなく、「今のままがいい」という者も何人かはいます。それを無理やり上流に持っていくとダメになってしまいますから、その人達には「試験のプロになれ」と。そこは分けて考えています。

    ────会社として目指す未来があるから、皆さんはそれを信じて頑張ることができるのですね。

    それはあると思いますね。もう1つの目標は、ドコモ以外の業容を拡大したいということです。ただし、この目標はまた別物でしてね。営業力も交渉力も、グループの中でしか育っていませんので、小さな部隊でまずは練習させないと、と思っているところです。

    ────現在は、ドコモグループの案件がほとんどなのですか。

    99%、そうですね。ですから最初は法人向けのソリューションで、何か小さな仕事をやってみるといったことから始めることになるでしょうね。そうして、徐々に外界と接していくしかないのかなと(笑)。

    ────その際の、御社の強みは何ですか。

    若いエンジニア達が、優秀だということです。今、社員の年齢構成としては30代前半がボリュームゾーンになっていまして、非常に若い会社なんです。

    ────30代前半といえば、御社設立時から一緒に会社を作ってこられた方でしょうか。

    そう、そうなんです。20代が少ないという問題はあるものの、この人たちが本当に育つと、何でもできるようになると思いますよ。

    ────一方で課題としては、どのようなことがあるのでしょうか。

    グループ全体で新規採用を抑制しているということが1つ。携帯電話の一加入あたりの社員数の多さが指摘されているため、新規要員の確保が難しくなっているんです。もう1つは、グループ外の未知の世界に打って出る手法が、まだハッキリと見えてこないこと。これは、もどかしいですね。社外から違う血を入れないと、外には出られないのかなと考えているところです。

    ────そこでもやはり、人財が鍵になるのですね。

    そう。その通りですね。

    ────「下請け意識からの脱出」を掲げておられた7年前から、大きな変化を遂げられたことを実感いたしました。混沌とした状況を「見える化」し、経営者自らが強い意思で事実と向き合うことの大切さを教えていただいたように思います。ありがとうございました。

ドコモ・テクノロジ株式会社
前代表取締役社長 木下 耕太さん

| | コメント(0) | トラックバック(0)
  • <$MTEntryTitle$>
    (現 東日本電信電話株式会社 監査役)

    「見える化」で成功した社員の意識改革(前編)

     

    「組織を変革するには、まず社員の意識変革から」とはよく言われることですが、長年の間に染み付いた仕事への姿勢は一朝一夕では変えられないもの。人事制度の変更や教育体制の刷新などのさまざまな手を尽くしても、思う効果が得られない企業も多いのではないでしょうか。社員の意識は、どうずれば改革できるのか。ドコモ・テクノロジ株式会社 前  代表取締役社長、木下耕太さん(現 東日本電信電話株式会社 監査役)に伺ったインタビューを2回シリーズでご紹介します。

  • ドコモ・テクノロジ株式会社http://www.docomo-tech.co.jp/

    2001年4月に、NTTドコモの研究開発業務の支援を行なうモバイル技術のスペシャリスト集団として設立。第3世代移動通信システム(IMT-2000)や第4世代システムに関する研究サポート、海外技術移転業務、知的財産の管理業務などを手がける。

    KOTA KINOSHITA

    1947年生まれ。工学博士。1971年に慶應義塾大学大学院修士課程電気工学専攻修了、日本電信電話公社に入社。一貫して移動通信システムの研究開発を手がける。NTTドコモの研究開発副本部長時代の2001年4月にドコモ・テクノロジ株式会社を設立し、NTTドコモ研究開発副本部長 兼 ドコモ・テクノロジ株式会社社長となる。2001年11月からはNTTドコモ研究開発本部長 兼 ドコモ・テクノロジ株式会社社長となり。2004年6月から現職専任、現在に至る。

  • 「研究開発の3枚下ろし」から誕生した企業

    ────御社は2001年4月に、NTTドコモの研究開発業務の支援を行なう新会社として設立されました。ドコモグループ内ではどのような役割を期待されていたのでしょうか。

    当社は、私がNTTドコモの研究開発副本部長を務めていたときに、グループ全体のR&Dを効率的に進めるために作った会社です。当時、「研究開発の3枚下ろし」と呼んでいた構想がありましてね。1つは「研究」。これは当然ながら、NTTドコモ本体の研究開発本部が手がける。もう1つは「新システム」、創造的開発ですね。これも本体でやる。そして3つ目が「現行システムの改良・改善」。これを子会社に移管しようと考えたのです。

    その目的は何かといいますと、本体の研究開発部門に逃げ道を与えない、ということなんですね。「現行システムの改良・改善があるから、新しいシステムが開発できない」とか何とか、開発者はすぐに逃げ込むでしょう(笑)。その退路を断つ、ということなんです。目先の仕事が忙しくて将来の仕事ができないというなら、目先の仕事は全部取ろうと。研究開発の逃げ道を断つために、この会社を作ったんです。

    ────その構想は、どのくらい温めておられたものなのですか。

    10年ほど前から、でしょうか。「退路を断つ」というのは、30年くらい前から考えていたことですが(笑)。

    ────御社設立に至られた2001年というのは、どのようなタイミングだったのですか。

    FOMAの試験サービスが同年5月から始まり、システムとして稼働し始めた時であり、次のことに本気で取り組まないといけないという時期でした。現行システムのせいで忙しいとは言わせないぞ、と(笑)。

    ────FOMAの正式サービス開始は2001年10月、御社設立の2カ月後でした。それを見越して御社を設立されたのですね。その構想は研究開発本部の中では、賛成派多数だったのでしょうか。

    そうでもないですね。目の前の仕事を持っていかれるのは嫌だという人もいたでしょうから。でも、それは表立っては言えない(笑)。創造的な時間を増やすためだと言えば、嫌とは言えないでしょう(笑)。

    ────設立当時は、どのような社員構成でスタートされたのですか。

    ドコモグループ内で電気通信設備の開発や保守・運用を行っているドコモエンジアリングから100名、ネットワークソリューションを手がけるNTTアドバンステクノロジから無線技術者を80名という陣容で始めました。これも、すでに存在する会社から技術者を移すわけですから、抵抗はありましたね。それは上のほうで話をつけてもらって(笑)。

    ────出身が異なる社員の方々が集まられたということですが、設立当時の社内はどのような雰囲気でしたか。

    盛り上がっていましたよ。それまでは、それぞれ会社の傍流だったわけです。しかし、これからは下請けではありません。「ドコモのR&Dの3分の1を担うことになる、自分達の会社なんだよ」と言ったら、みんな新しい家ができたと思って元気でしたね。

    親会社との人事交流によって、下請け意識を脱却

    ────新会社のスタートにあたり、社長が最も留意されたのはどのようなことだったのでしょうか。

    下請け意識から脱却することです。それまでは、ドコモ本体の下請けという位置づけでしたから気持ちも受け身になっていたんですね。でも、これからはそうではない。「ドコモのR&Dの3分の1は自分達の意思でやるんだ」、「主人公になるんだ」というように気持ちを変えさせるのは、なかなか大変でしたよ。

    ドコモ本体にも、その一因はあるんです。子会社に対しては「指示したことを正確に、期限通りに行ってくれればいい」という姿勢なんですね。その状況を改善する方法は、いろいろと考えましたね。

    ────例えばどのようなことをなさったのですか。

    まず一番効果的なのは、本体からの出向者を増やすことです。出向者はドコモの社員とは同格ですから、こちらから向こうに意見が言えるようになる。自分達から提案してもいいのだということを、目の前で見せて教え込ませないといけないわけです。

    もう1つは、とにかく実力をつけること。最近は当社の社員もかなり実力がついてきましたので、有益な提案ができるようになってきました。するとドコモにも耳を貸してもらえるようになります。最初は「猫の手」だと思われていますから、「意見はいいから、手だけ動かせ」となってしまっていたんですね。

    ────それは辛いですね。

    辛いですよ。しかし、辛いと思えるならいいんです。辛いとも思わないのが、怖い。

    ────どのポジションに出向者の方を迎えるかということも、大切になってくるのでしょうか。

    課長クラスですね。15、16人ぐらいの部下を持って、本体とやり取りするポジションです。

    ────出向者の方が入ったことで、社内の雰囲気は変わられましたか。

    変わりましたね。だんだんと、対等にやり取りしてもいいのだという雰囲気になってきました。今、従業員が約450名いる中で、ドコモからの出向者が約50名。出向期間は2年から3年です。設立からの7年間で当社への出向経験者は200名近くになりました。

    ────御社への出向を経験された方がNTTドコモ内に増えることも、御社にとってのメリットになるのでしょうか。

    そう、それも大きいですね。出向者のほかにOBもいます。ドコモで部長をしていた人が、今こちらの事業部長に就いていますので、ドコモにはかつての部下がいる。そうなると、当社への依頼の仕方も変わってくるんですね。

    徹底した数値管理で、業務の問題点を「見える化」する

    ────先ほど「実力をつける」というお話がありましたが、具体的にはどのようにして技術力を高めてこられたのでしょうか。

    開発工程での最終段階である試験1つとっても、やれといわれたから試験するというのではなく、仕様をよく読みこんで自分で試験項目を決める。そしてバグが出れば原因を分析して、上流に戻って仕様におかしい点はないか確認する。このぐるぐる回りをやると、だんだんと分かってくるんです。構造が悪いのか、仕様がおかしいのか。そうすると、どこに手を打てばいいか提案ができるようになるんですね。

    大切なのは、「なぜ不具合が起こるのか」を考える気になるかどうか。これまでは、頼まれたことをやればいいだけでしたから、試験の効率を上げようが提案をしようが、売上は変わらない。それでヨシと思うと、もうどうしようもないわけです。

    ただ、最初から「提案しろ」というとためらってしまいますから、まずは「疑問を持って、現状を否定しろ」と。「なぜこういう方法で指示されているのか、そのことに疑問を持て」と。納得できれば構いませんが、恐らく納得できないでしょう。他人の決めたことですから(笑)。

    ────まずは、指示されたことに疑問を持て、と。

    そうです。世の中にはよくいますね、「それは最初からこうなっているんだ」という人が。「なぜですか。」と聞いても、「昔からそうなんだ」と言うような(笑)。そうではないんです。

    ────現場のみなさんの意識は変わってこられましたか。

    かなり変わってきましたよ。特に管理職が変わってきたなと思うのは、品質のデータをきちんと取らせるようにしたんです。当初は、バグ(ソフトウェアの不具合)を検証する試験で「最適値(効果が最も発揮される試験条件)を考えているのか」と聞くと、「できる範囲で精一杯やります」という。「できる限り試験して、バグをゼロまで持って行きます」と。

    ────その現状を否定して、効率化を追及するのはなぜですか。

    効率を上げて、コストをなるべく削減するというのは当然の話。効率を上げるということは、当社の売り上げは減るんです。でも、それが普通でしょう。しかし、「最適の品質を設定して、それに見合う程度の試験を計画するように」と言っても、「そんなことはできません」というんですね。

    でも、試験の量と品質がどういう関係にあるかが分からないのはおかしい。きっちりデータを取るように指示したら、オーバースペックではないかというものも出てきたんですよ。言ってみれば、99.9でいいものを99.999まで目指している。問題は、そこまでの品質をユーザーが求めているのか、ということなんですね。

    ユーザーのニーズに応えるものでないなら、それは無駄金です。無駄な試験をやめれば、余った予算は別な使い方ができますね。無駄な仕事をして、疲れて大変だなどといっても、それは自虐的なだけ。

    品質を数値管理するようになれば、ドコモから指示されたスペックに対して「これはおかしい」と言うこともできるようになるわけです。それがようやく自分達でも分かってきて、無駄な試験はしなくてもいいのではないかと提案できるようになってきた。データの蓄積の賜物ですね。

    ────データがあったとしても、社会的なインフラを担うという御社の責務上、「バグが出ると怖い」という心理的な抵抗感を克服するのは難しいように思います。

    それはバグの種類を分けろ、ということなんですね。ユーザーに迷惑をかけるバグと、社内的な運用面でのバグ。バグにも2種類あります。中には、保守要員が使う用紙の印字が少しにじむだけといったバグもあるわけです。それは現場に我慢してもらえばいいことです。

    「バグが出ると怖い」などと、エンジニアがいつまでも形容詞でモノを言っていてはだめで、定量的にモノをいえるようにしなくてはいけない。「バグが嫌だ」と言っているだけでは、動きが取れないんですよ。

    ────現状を「見える化」するということですね。管理会計の概念にも似ているように思います。

    そう、その通りです。数値で把握してしかるべき手を打てば何とでもなることも、形容詞で話していると一歩も動けませんからね。

    目標も、明確に数値化しています。ドコモのスペックに対して「これは試験しなくてよい」と提案すると、当社としては売り上げが落ちることになります。その年間目標が10億円。つまり、ドコモのコストを毎年10億円削減しろということです。「売り上げが落ちても構わない。提案した人はちゃんと評価するよ」と。

    ────売り上げを減らしたことが評価されるというのも、面白いですね。

    無駄な提案をしてお金をたくさんもらっても、グループとしては無駄金ですからね。数値目標はもう1つありまして、試験方法を効率的にすることで削減できたコストは当社の利益にしようと。利益目標も年間10億円を掲げ、数値管理のデータは末端の社員まで見られるようにしています。

    ────「グループのR&Dの3分の1を担う」という当初の構想は、どの程度まで達成されたのですか。

    かなり達成できましたね。むしろ、当初の想定よりも多くの仕事が来ているくらいです。「研究開発の3枚下ろし」の2枚目、新システム開発の半分くらいは、計画段階はドコモで行いますが、試験の段階からこちらに来るようになってきたんです。ですから部署によっては、ドコモの新入社員を最初に当社に配属するといったこともしています。こちらで数カ月間、現場を経験させてから本体に戻す。現場実習みたいなものですね。

    ────それは、昔からなさっておられることなのですか。

    いえ、ここ数年のことです。ドコモの研究開発は仕様を決めるところまでが主な仕事になりつつあり、物を触る部分はこちらに来てしまった。その状況でドコモの新入社員にいきなりスペック検討をさせても、上滑りするんですね。そこで、まずは金物なりソフトなりを触らせよう、と。

    ────それだけ、御社に蓄積された技術が評価されているということでもありますね。

    そういう部分が増えてきましたね。少し行き過ぎたかなという気もしていますが(笑)。下請け意識をとにかく排除したということ。これが大きかったかもしれませんね。当社の社員は、みな、プライドを持っていますから。このバグは自分達じゃないと対応できないと思ってやっています。それは大事なことだと思いますね。

    設立から丸7年を経て、ドコモ・テクノロジは「下請け意識」を見事に脱却し、技術的なパートナー会社へと変貌を遂げました。しかし、これほどの変化を起こすことができたのは、「見える化」の力だけではありません。後編では、社員の意識を変革するための、経営トップのあり方について伺います。

*続きは後編でどうぞ。
  「見える化」で成功した社員の意識改革(後編)

« 2008年5月 | メインページ | アーカイブ | 2008年7月 »

ウェブページ

Powered by Movable Type 4.1

このアーカイブについて

このページには、2008年6月に書かれたブログ記事が新しい順に公開されています。

前のアーカイブは2008年5月です。

次のアーカイブは2008年7月です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。