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商店街を再生した人と組織の力とは(中編)
かつては賑わっていた商店街に、次々とシャッターが下りる──商店街の空洞化は、問題視されるとともに時代を象徴するものとしても語られてきました。長引く消費不況や他の商業施設の進出といった外部環境の変化に打ち勝ことはできないのか。自組織の内部環境を変え、活力を取り戻すにはどうすればよいのか。商店街の再生に見事成功した、大須商店街連盟の会長、小野章雄さんに伺ったインタビュー3回シリーズの中編をお送りします。
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大須商店街 (http://www.osu.co.jp/)
1612年に大須郷(岐阜県羽島市大須)から移転した大須観音の門前町として発展。戦前は名古屋一の繁華街といわれる。しかし戦後の大規模都市計画により周辺に幹線道路が敷設されて陸の孤島と化し、オイルショックの影響も受けて深刻な客離れに見舞われる。1978年に始まった大須大道町人祭の成功を契機に活気を取り戻し、昔ながらの店と若者向けの店が共存するユニークな商店街として発展を遂げ、現在では空き店舗ゼロを誇る。大須商店街連盟は1955年の設立。現在は8つの商店街振興組合の369会員が加盟する(2007年6月1日現在)。
AKIO ONO
1948年生まれ。1991年に大須商店街連盟常任理事に就任以来、1996年に専務理事、2005年連盟会長に就任し現在に至る。
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一つひとつは地道な試みも、継続すれば大きな力になる。
────大須大道町人祭は、大須商店街再生の象徴だというお話がありました。やはり商店街再生のための施策は、イベントが一番有効なのでしょうか。
そうですね。ただしイベントといいましても、例えば人気のある歌手を呼べばその時はいいかもしれませんが、歌手の方が帰ってしまえばそれで終わりです。そうではなく、私どもがやっているのは本当に地道なことなんですね。年間の行事、毎月の行事、毎週の行事と、大須大道町人祭以外にもいろいろなイベントを行っております。
年間でいいますと、4月に行う大須春祭り、8月の大須夏祭り、それから10月の大須大道町人祭の3つが大きな行事。毎月のイベントとしては、18日と28日に「大須縁日」というものをやっています。これは、大須観音の境内で18日と28日に開かれる骨董市に合わせて、商店街から甘酒を無料でふるまうというものです。先着200名様で、夏は冷たく、冬は温めたものを飲んでいただいています。
またその日には、同じく大須地区にある万松寺の身代わり不動明王前で、やはり組合員が餅をついて「身代わり餅」として無料でお配りしています。万松寺は織田信長の父である信秀公の菩提寺で、信長ゆかりの寺。その信長が戦場で撃たれた際に、懐に持っていた餅が弾を受けて命拾いしたという逸話がありまして、それにあやかって「身代わり餅」と。
これも毎回、非常に多くのお客様が並ばれる行事になっています。毎月やっていると、「先月も身代わり餅を食べて災難もなく無事に過ごせたから、今月もまた餅をもらおう」となるのが人間の心理なのだろうと思います。その日は、車道がある商店街(赤門通と赤門明王通)を車両通行止めにして屋台も出しますので、それを楽しみに来られるお客様もいる。ですから、18日と28日は平日にも関わらず非常にお客様が多くなります。
毎週のイベントとしては、商店街にある広場(ふれあい広場)で「サンデー大道芸」というものをやっています。これは、大道町人祭りに出るレベルには至っていない芸人の方を対象に、事前登録性で1日に3組から4組、許可した方にやってもらうというものです。
このようにして、「大須へ来れば、何か面白いことをやっている」という期待を、絶えず持ってもらえるようなことをやるのが大事だろうと思います。
────これらのイベントをすべて継続されているというのも、大変なことですね。
物事は、思いつきでやっても意味がありません。継続しなければ何のメリットもないわけです。ほかの商店街から視察に来られる方の中には、「毎月は大変。ウチではできない」といわれる方もいます。大変か大変じゃないかといえば、それはやはり大変ですよ。でも、大変だからできないということはないんです。みんなでやるから継続できるわけで、自分たちの街は自分たちでやらないと、良くはならないですよね。
前述のイベントのほか「氷の彫刻コンクール」や「檜太鼓」の実演など、各商店街が開催するイベントも数多くある。
甘酒の材料なんて高価なものではありませんから、費用はそれほどかかりません。材料を買ってきて、つくって、飲んでもらうだけです。餅も、前日からもち米を洗って水につけて、当日に蒸して......というのは大変ではありますが、これも費用はさほどかからない。費用がかからないのに、「大変だからできない」と言う方もいるわけですね。しかし、何もしなければ結果はゼロです。継続してやることによって、並んでまでお客様が来てくれるようになる。毎月、このイベントを目的に大須に来てくれるお客様もいるようになるわけです。
────「イベントはもう止めよう」といった声が、役員の方からあがるということはありませんか。
そういう意見の人もいます。「これでは商売をやっているのか、イベントやっているのかわからない」という意見もある。けれども大多数は、イベントを続けるということで一致しています。お客様に来ていただける間は続ける。ですからイベントを続けるだけでなく、いかに注目されるかということも大事になります。つまりは、いかに露出するかということですね。新聞やテレビといったいろんな報道関係に、いかに露出するか。報道で取り上げていだけると、見る方がそれだけいるわけですから、これは非常に効果的です。
注目されるコツは、他にない取り組みを先駆けてやること。
露出するためには、他所がしないことをするのが一番のポイントです。例えば、昨年の大須大道町人祭では30回記念として、「お鍬(くわ)祭り」というものをやりました。これは、60年に一度のお祭りとして江戸時代から続いているものです。その昔、伊勢のお山(伊勢神宮)に茂る榊に鍬の形をした枝ができ、その枝が生える年から豊作が続くと言い伝えられる、豊作祈願のお祭りです。
1827年には大須から祭りの行列が繰り出した記録もあり、昨年がちょうど60年周期の年。それならばやってみようと、資料に基づいて当時流行したはりぼてを制作して商店街の中を練り歩いたところ、60年に一度の行事ということで、NHKから民放からほとんどのテレビ局と、新聞にも取り上げていただいて、大変な宣伝になりました。最終日の日曜日には約40分間、テレビの生中継もありました。話題を作れば取り上げていただけるわけで、イベントはいかに話題を作るかということにあるということです。
また夏祭りでは、地元のテレビ愛知と協力して「世界コスプレサミット」と名付けたパレードを行っています。もう5年ほどになりますが、昨年は世界11カ国から参加があり、総勢約150名のパレードになりました。一昨年には愛知万博の会場内でも開かれて、大変な人気だったと聞いています。5年前といえば、全国的に見てもコスプレを取り上げているところは、まだ少なかったですね。これもいち早くやることが一番大事だろうということで始めたわけです。
そのほか、これも大須に長く続いている行事ですが、大須観音の境内で花火大会を開催しています。街中のこの狭い境内で花火を打ち上げるのは、ほかにはないのではないでしょうか。現在は、打ち上げ場所は観客席から25メートル以上離れていることと決められていますが、大須は今までやってきているからということで慣例的に許可が出ているわけです。この花火大会にも、境内や本堂が人で埋め尽くされるほどの非常に大勢のお客様が来られます。
またイベント以外でも、AED(自動体外式除細動器※)を平成17年に商店街として設置しました。これもいち早く設置することで、新聞やテレビが取材に来てくれるわけですね。そういったことで、ほかがやらないようなことをやるということは非常に大事なんだろうと思います。
※心臓に電気ショックを与えることで、突然停止した心臓の働きを戻すように試みる医療機器補助金に頼るだけでなく、自前の収益事業を育てる。
────「何もしないことが一番マイナス」というお考えが、さまざまな取り組みにつながっているのですね。
そうですね。また、イベントはただ行うだけでなく、売り上げに直結するようなことをやっていく必要があるだろうということで、私が会長になってからのここ2年ほどは、春祭りで商品券を発売しています。500円券を4枚綴りにしまして、それを2割引きの1600円で販売する。差額の400円は連盟が負担します。昨年は販売数が8000セットになりました。これは組合員の店以外では使えませんので、結果として組合員全体で1600万円の売り上げが生まれたことになります。
さらにいえば、この券はおつりが出ませんから、例えば800円の買い物をしようとすると500円券に現金300円をつけることになる。ですから、最終的には2000万円以上の経済効果はあったんだろうと思います。連盟の負担は320万円になりますが、それでもお客様に年に一度、お値打ちな券で買い物をしていただこうということです。
また、私ども連盟自体が収益をあげることも考える必要があります。今、国も県も市も、財政的には非常に厳しいですね。補助金も年々減っています。組合員から賦課金は集めていますが、私どもも事業を通じて売り上げをあげるようなことをやっていかないといけない。
例えば昨年の10月に名古屋の商店街としては初めて、ケータイクレレジット「iD」を商店街全体に導入しましたが、「iD」による決済の0.1%が連盟に手数料として入ってくることになっています。また始めて1年経っておりませんが、ゆくゆくは相当な収入になるだろうと考えています。
また、「大須マップ」という小冊子を発行して商店街内で配布しています。組合員の店舗は無料で掲載しますが、組合員以外は年間の掲載料が3万円。組合員も写真付きで載せる場合は、2万円。今までは両面刷りの1枚ものでやっていたのですが、それだと両面で200件しか載りません。どこかやめる店が出ない限りは、新しく載せたくても載せられないということもあった。しかし、冊子ならページさえ増やせばいくらでも載せられますし、売り上げに増にもつながります。2007年度は800万円以上の売り上げがあり、22万部を制作しましたが、制作費を除いても約100万円の黒字になりました。
────立派な収益事業ですね。
ただ、規制の問題があって、自由にはできない面もあります。例えば、アーケードなど補助金を受けてつくった設備には、看板広告をつけるといった営利活動に制限があります。規制を外してほしいと経済産業省に交渉をしていますが、なかなか厳しい。それでも、私どもも自立してやっていかないと、いつまでも補助金に頼ってばかりはいられないわけです。
ですから例えば、お祭りの際にアーケードを飾るフラッグをつくったときには、3分の2はお祭りにして、3分の1にはコマーシャルを入れようと。すると、経費分が出ますし、若干の収益も入ってくる。連盟の事務所は私どもで取得した自社ビルですが、1階、2階はテナントにして収益をあげています。3階が連盟の事務所で、その上は名古屋市のコミュニティセンター。この地区にコミュニティセンターがなかったということで、建物を建ててから市に売却したわけです。用地取得と建設は借り入れでまかないましたが、これもあと数年したら返済が終わり、逆に収益を生むようになるだろうと思います。
このように、大きく儲けるわけではないのですが、収益をあげる方法を絶えず考えていくことが大事なんだろうと思います。
商店街再生の象徴といわれる大須大道町人祭りは、昨年30周年を迎え、その他の数々のイベントも地道に継続してきた大須商店街。組合員の団結を保ち、情熱を維持し続けられるのはなぜか。後編では、活動を絶やさず継続していくための秘けつを伺います。
*続きは後編でどうぞ。
商店街を再生した人と組織の力とは(後編)