2007年12月アーカイブ ..

株式会社再春館製薬所
ITM営業現場部 兼 社員満足推進室 人事部 マネージャー
岡村 宗敬さん

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    広告広報企画部
    濱田 恵輔さん

    本物経営への道のり(後編)

    「お客様第一主義」、「社会への貢献」、「従業員の幸福の追求」──経営理念にこういった言葉を掲げる企業は、非常に多くあります。しかし、現場に目を向ければ売上至上主義が横行し、企業の永続的な発展のために不可欠であるはずの理念が「絵に描いた餅」になっている企業が多いのもまた実情です。理念の追求とは。本物の経営とは。3回シリーズの最終回では、再春館製薬所のITM営業現場部 社員満足推進室 人事部 マネージャー、岡村宗敬さんと広告広報企画部の濱田恵輔さんに伺いました。

  • 株式会社再春館製薬所https://www.saishunkan.co.jp/

    1932年設立。『ドモホルンリンクル』で知られる、漢方の医薬品・化粧品を開発する製薬会社。人間が本来持っている自然治癒力、自己回復力を最大限に引き出す製品づくりにこだわる。行動規範に5つの『しん』、『心』『真』『診』『深』『信』を掲げ、顧客と直接コミュニケーションを図ることで個人商店のように心の通ったサービスを提供するために、自社製造とテレマーケティングによる直接販売方式を貫く。

    MUNETAKA OKAMURA (写真左)

    1964年生まれ。00年株式会社再春館製薬所入社。お客様満足室責任者を経て、2002年に営業現場部責任者、2003年営業現場部マネージャー、2007年より社員満足室人事部マネージャーを兼任。

    KEISUKE HAMADA (写真右)

    1976年生まれ。01年株式会社再春館製薬所入社。お客様満足室、営業現場部アウトバウンドを経て、2004年より広告広報企画部にて主に企業広報を担当。

  • 組織間での壁をなくすために、フロア内の壁を取り払う。

    ────オフィス内に仕切りがないことに驚きましたが、この設計も『ありたい姿』を伝えるための仕掛けといえるのでしょうか。

    岡村 まさに仕掛けです。見ての通りフロアに壁は一切ありませんし、会議室もすべてガラス張りです。オフィスのこの形そのものが、最終的にはお客さま満足につながるんです。部署と部署の間に壁があったり、5階建てなどで階を移動しないといけないとなると、それだけで伝わる情報のスピードが落ちてしまいます。また、社員同士が頻繁に顔を合わせなくなると、その相手は情報を伝えなくてもいい存在になり得るんですよね。でも顔を合わせれば、「あ、伝えておかなければ」となる。いかに情報を早く伝えて共有し、対応に活かせるかということを考えた結果がこの形。その中心に会社のトップがいるのも、社内の動きを敏感に感じたいと考えているからなんです。

     

    (写真左)2007年1月に移転した新本社屋は2階建てで延床面積は1万1600平方メートル。フロアには一切の壁や仕切りがなく、社長室もない。写真中央、椅子の背にスーツのかかっている席が、西川社長の席だ。また環境にも配慮して、資料を必要以上に保管しないよう机に引き出しはない。足元にカゴを置き、持ち物はそこに入れるルールになっている。
    (写真右)フロアのそこかしこに人の輪ができ、立ち話し風のラフなスタイルでミーティングが行われている。

     

    (写真左)ガラス張りの会議室。(写真下)サーバールームもガラス張り。誰からも見える環境にすることで社員の中にも自律が生まれ、セキュリティも自然と強化される。

    岡村 こういうフロアにおりますと、「彼は最近笑顔が少ないね。何か悩んでるんじゃないか」とか、「あの部署はいつも笑い声がして、非常に動きがよくなってきたね」といった、感覚で感じることがたくさんあるんですね。西川自身も何かあればすぐコミュニケーターの席に行って、当社で『しおり』と呼ぶ、お客さまとの会話の記録を実際に見ます。

    これが、階段があったり、部屋の壁がありノックしないといけなかったりすると、少なくともスピードは間違いなく落ちる。壁をなくすことで社員の間の連携がよくなって、情報がスピーディに伝わり対応できることが、最終的にはお客さま満足につながると思うんです。

    ────部署ごとの壁がなく、社内を自由に行き来できるオフィスというのは、ともすると仕事をしているのか遊んでいるのか、けじめがなくなることを危惧して導入を躊躇される企業もありますが、御社でよい効果が出ているのはなぜなのでしょうか。

    岡村 確かに、私も席にはほとんどいませんので「あいつは何をしているんだ」と思われても仕方はないかもしれませんが、そこは信頼関係といいますか、そういうもので成り立っているんだろうなと思います。ですから、本当の意味での自主性がないと、こういったオフィスの設計はできないだろうなと思います。

    濱田 テレビドラマによくあるような、スポーツ新聞を読んで仕事をサボっているような世界は、ここには一切ないですね。風通しのいいフロアだということは、あらゆる目から見られているということでもありますから、そんなことができる環境にはまずないんです。

    また、若手のうちから大きな裁量権が与えられますので、各自の仕事は自分の責任においてしなくてはならない。それを時間内にうまくこなしていこうとすると、サボっている余裕はないというのが正直なところです。でも逆に、それが面白いんですね。指示されてするような仕事ではないので、いろいろと自分の頭の血を巡らせることができる。「コピーとって」なんていわれることもありませんし。面白いですね。

    ────社員のみなさんの表情にも、いきいきとされている様子が表れていますね。

    濱田 入社2年目で、20何万人以上のお客さまに送るダイレクトメールを作成する仕事が任されたりするんですね。もちろん、先輩に相談しながら進めますが、若いうちからこれほどの仕事を任されるのはすごいなと思います。そのダイレクトメールにお客さまからどれくらいの反応があったのかというのを見れば、また次もと、やる気になりますよね。

    確実に、迅速に情報を共有するために、
    生のコミュニケーションにこだわる。

    パソコンの常時使用が許可された部署や担当者以外は、12時から18時の間は自席でのパソコン使用は不可。フロアに設置された『臨時PC机』においてのみ使用が可能となる。

    岡村 フロアに壁がないという物理的なことだけではなく、コミュニケーションでも直接話すということにこだわるのが当社の特徴なのかなと思います。例えば、社員同士がメールでやりとりしていると、西川はよく「直接行って話せばいいじゃない」というんですね。なるべく生で伝えたいという意識がものすごく強いというのを感じます。

    メールの使用を制限する施策も導入していまして、12時から18時の間は原則としてパソコンの使用が禁止されています。対面でのコミュニケーションを活性化させるためにワンフロアのオフィスで働いているのにメールでのコミュニケーションが増えてきて、もともとの目的からのズレを感じるようになったことから導入した施策です。ただし、システム部門や経理など一部の部署や担当者に関しては、『PC使用許可証』を発行していまして、その他の部署も理由や期間を明記して役員に申請し、許可されれば常時の使用が可能ですが、審査のハードルは非常に高くなっています。

    太鼓も、そのための仕掛けの一つです。太鼓が鳴れば、鳴ったということはフロア中が分かりますし、各部署の代表が必ず集められる。これがメールですと、一斉に発信はできても、一斉に認識は取れないんですね。相手がそのメールを開かない限り、情報を共有できないわけですから。

     

    (写真左)オフィスの中央に置かれた太鼓。
    (写真右)太鼓が鳴ると、各部署の代表がすぐに集まり、必要な情報を共有して部署に持ち帰る。

    ────定例で太鼓が鳴る時間があるそうですね。

    岡村 昼と午後の4時から4時半ぐらいの間の2回がそうですね。夕方の太鼓では、翌日の朝一番から認識を取らないといけないことを共有します。インバウンドは朝8時から営業していますので、昼の太鼓で認識を取っても遅いことがあるんです。ですから昼の太鼓では、それ以降の時間、夕方までの間に認識を取らないといけないことを共有します。

    ────定例の時間以外では、どのようなときに太鼓が鳴るのですか。

    岡村 例えば、どこかで台風や地震があったときには即座に鳴ります。関東地方に台風が接近したとしますね。該当地域のお客さまに今当社からお電話するのはご迷惑だと判断したら、「その地域のしおり(顧客カード)は一切抜きなさい」、「その地域のお客さまからお電話をいただいた場合は、気遣いを持って対応しなさい」という情報を一斉に流すわけです。

    何かしらお客さまからお叱りをいただいて、これはすばやく認識を取らないといけないといった場合にも召集がかかります。また当社の商品のことでなくても、漢方薬で何か変わったことが起きたというときには、「再春館は大丈夫?」という声が、必ずお客さまから入るわけです。それに対してどうお答えするかということなど、瞬間的に認識を取らないといけないことに対しては太鼓が鳴って各部署から社員が集まり、また各部署に戻って情報を共有するという流れになっています。

    けれども情報の共有方法が完成されているかというと、そんなことは全然なく、これは今、再春館が抱えている問題でもあるのですが、人数が多くなる中でいかに考えを浸透させていくかということが、難しくなってきてはいるんです。ただし、西川の口からもよく出ることですが、無造作に会社を大きくしたいとはまったく思ってないんですね。考えをしっかり共有できる人数の中で経営ができることが大切なのであって、売上高や社員数の多さに対する重要性を西川はあまり感じていない。規模の拡大を目指して経営をしているわけではないのですが、それでもやはり人数が多くなりますといろんな考え方の人間が増えてきますから、いかに会社の考えをみんなに伝えていくかということについて、これからもいろいろな取り組みを続けていかなくてはいけないと、強く思います。

    ですから、西川は直接社員と対話をしようという意識が強くて、例えばアンケートなどは嫌がるんですよね。直接話して、直接聞いて。そういうところからコミュニケーションが生まれて本当のことが理解できるって思っていますので。本当に、そこは徹底してますね。『統計』というものも、大嫌いですしね。

    お客さまとの会話を記録する『しおり』は手書き。パソコン入力は記録が簡潔になる傾向があるとして、手書きのスタイルにこだわる。

    濱田 商品開発でも、「この声の比率が高いから、それに基づいた商品を開発する」といったことはありませんしね。「それはあくまでも統計でしょう」と。同じ声でも、その背景は違う。統計はそれらをまとめた集約でしかないわけで、一つひとつの声を分解していかないと真実はわからないんです。

    岡村 お客様とのコミュニケーションでも、同じことがいえると思います。例えば、お客さまから「商品の使い方が分からない」というお問い合わせをいただいたときに、その背景がわからないと説明を間違えてしまうんですね。もしかしたら、使用説明書そのものがわかりづらいのかもしれない。とすれば、説明書を改善しないと根本的な解決にはなりませんよね。もしくは、効能、効果をあまり感じていらっしゃらないということであれば、お話をする内容もまた変わってくる。同じ言葉が出たとしても、その言葉が出てきた背景はみんな違うので、その背景を理解したうえでお答えしないと、そのお客さまの悩みは解決できないんです。ですから、いかにお客さまとのコミュニケーションを取るかが重要になります。

     

    2階建ての新本社で上下階を結ぶのは、階段ではなく、立ち止まって情報を見やすいようにスロープ。その途中にはたくさんの掲示があり、商品情報や目標などの情報共有が徹底して行われている。これらの掲示もすべて手書き。情報に温度を持たせるために、『POP隊』と呼ばれる社員が手書きで作成する。

    当たり前のことを地道に継続することこそが、
    本物を生み出す力になる。

    ────オフィスの設計や社員教育、手書きにこだわる『しおり』や社内掲示など、すべては「お客様の満足」のためのお取り組みだということが、本当に一貫されているのですね。

    岡村 でも、特別な何かをしているということではないんです。当り前のことを、当たり前にやっていくことが一番大事だと思います。商いの本来は、お客様に買っていただいたことに、どれだけ感謝ができるかということ。その当然のことを、いかに根付かせるかがすごく大事なんだろうなと思うんです。

    といっても、それを短期間でなし遂げることは難しくて、直接のコミュニケーションを大事にする、お客さまの満足がなぜ大事なのかということをきちんと説明する、そういったことに時間を使わないと、根づかないんだろうなと思います。

    ────当り前のことをやり続けるのは非常に難しいことですが、御社ではなぜそれができるのでしょうか。

    岡村 西川自身が、本当にそう思っているということが大きいと思います。うわべやカッコよさで言っているわけではなく、本当に『ありたい姿』を目指したいと思っている。そして、「そういう仲間になろう」というメッセージを社員に送っている。だから私たちも「やろう」という気になるんですね。

    ────研修でも、「人としてのあり方」に関わる教育をされている印象を受けました。

    岡村 そうですね。社員と話をするときも、社員が色々と悩んだときのアドバイスとして、「誰のためにやりたいのか、主語は誰なのか。迷ったときにはそれを考えなさい」と言いますし。本当に単純なんですよ、西川は。「お客様のためになるかどうか」ということしか言いませんから。もちろん経営者ですから、売上や利益も考えていますが、お客さまの満足がなければ売上は絶対にあがらない。そのことをいつも言っていますね。

    ────『お客さま満足』という、本当にそこ1点なんですね。

    岡村 他社の話もまったくしませんからね。『競合』という言葉も聞いたことがないですし。

    濱田 「あそこがこんな商品出したからうちも出すぞ」みたいな話も、まったくしたことがないですね。

    ────御社が大事にされていることを、改めて一言でいっていただくと、何になるのでしょうか。

    岡村 やはり、『人間力』と言えるようにならないといけないんだろうなと思います。当社が目指しているのは瞬間的な売上ではなく、お客さまに長くお付き合いをしていただける関係。地道に長くお付き合いいただける会社になるためにはどうすればよいのかということを、常に考えています。そうしたときに大事になる要素は、やはり『人』なんですね。

    どれだけ商品が良くても、お客様のお悩みにきちんとお答えしたいという気持ちがない限りは成り立ちません。もちろん商品に対する思いや品質、安全性も大切ですが、他にも素晴らしい商品を出している同業他社はたくさんあります。その中で、この会社だったら一生付き合っても間違いないと思っていただけるかどうかは、社員一人ひとりの『人間力』に関わってくるんじゃないかと思います。ここ数年、売上げが右肩上がりできているのはなぜかという話になったときにも、西川は「それは人が成長していることの表れだろう」と言っていました。

    ですから、人の育成に力を入れることが大事なんですね。さきほどお話したようないくつかの仕掛けをしていますし、これからは、それを途切れさせずに引き継いでいくやり方をきちんと考えないといけない。人の育成は一瞬でなし得るものではありませんし、極端にいうと30年後の社員は今とはまた変わっているわけです。けれども、方法論には時代の流れがあったとしても、根本の考え方は絶対に変わらない。本物じゃないと、ロングセラーは生まれないし、会社も長く続けていけないですよね。商品であれ、人であれ、会社の対応であれ。本物だけしか生き残れない。それは強く思います。

    ────ありがとうございました。

株式会社再春館製薬所
ITM営業現場部 兼 社員満足推進室 人事部 マネージャー
岡村 宗敬さん

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    本物経営への道のり(中編)

    「お客様第一主義」、「社会への貢献」、「従業員の幸福の追求」──経営理念にこういった言葉を掲げる企業は、非常に多くあります。しかし、現場に目を向ければ売上至上主義が横行し、企業の永続的な発展のために不可欠であるはずの理念が「絵に描いた餅」になっている企業が多いのもまた実情です。理念の追求とは。本物の経営とは。再春館製薬所のITM営業現場部 社員満足推進室 人事部 マネージャー、岡村宗敬さんに伺ったインタビュー3回シリーズの中編をご紹介します。

  • 株式会社再春館製薬所https://www.saishunkan.co.jp/

    1932年設立。『ドモホルンリンクル』で知られる、漢方の医薬品・化粧品を開発する製薬会社。人間が本来持っている自然治癒力、自己回復力を最大限に引き出す製品づくりにこだわる。行動規範に5つの『しん』、『心』『真』『診』『深』『信』を掲げ、顧客と直接コミュニケーションを図ることで個人商店のように心の通ったサービスを提供するために、自社製造とテレマーケティングによる直接販売方式を貫く。

    MUNETAKA OKAMURA

    1964年生まれ。00年株式会社再春館製薬所入社。お客様満足室責任者を経て、2002年に営業現場部責任者、2003年営業現場部マネージャー、2007年より社員満足室人事部マネージャーを兼任。

  • 「全社横串会議」、「ご意見箱説明会」。
    組織の壁を取る仕掛けで、理念を全社に浸透させる。

    ────社員数が1000名近い規模になられてもなお、会社としての『ありたい姿』を社内で共有することができているのは、なぜなのでしょうか。

    西川は社員に対して、ここまで正直に話すかというくらいに何でも話しますし、話す機会を多く設けるように心がけています。それが大きいと思いますね。また、毎週定例の経営会議の内容を社員に伝えるシステムもあります。『横串』と呼んでいる、部署を超えたチーム活動です。『横串』は、開発の者もいれば広報の者もいるという通常の業務とは違うチームがいくつかあって、そのチームの代表が参加する『全社横串会議』に経営会議の内容が伝えられるという仕組みです。内容とは「経営会議では、こういう話があった」「今、会社はこういう方向に向かっている」というようなこと。その内容を、会議に参加していた代表がチームに戻って、ほかのメンバーに伝えるというシステムになっています。

    ────『横串』は、いつ頃から始められたのですか。

    2005年からです。今の会長、西川が社長だったときは、まだまだ小さい組織でしたので、西川がポンとひとこと言えば、全社に瞬く間に伝わっていきましたし、想いを共有しすぐに行動に移すことができました。しかし1000名近い組織になると、伝えていくことが物理的に難しくなってくる。今後もっと増えたときには、もっと難しくなると思います。それを解決する具体的な方法の一つとして、『横串会議』というものをやってみようと。トップの考えを即座に伝えるという役割だけでなく、部署間の連携をもっと強めようという狙いもありました。いきなり業務上のコミュニケーションが生まれなくても、社内でちょっとすれ違ったときに、挨拶したり会話を交わしたり。そんな小さなことから社内の連携が生まれ、強くなっていくと思います。そしてそれが、結果としてお客様対応のスピード化にもつながる。『ありたい姿』の実現のためのひとつの方法が『横串会議』なんです。

    また、『ご意見箱説明会』というものもあります。社内に『ご意見箱』という箱を設置していまして、お客さまとの会話で得た発想や、会社や仕事に対して何か提案があるときは、社員がいつでもその箱に投稿することができるというものです。寄せられた意見は社長を始めとする経営陣が必ず目を通しますし、ただ読むだけではなく、まずは文面で回答をしたものをすぐに張り出します。さらに、だいたい2カ月に1回のペースで全社員に対し説明会を設け回答するようにしているんです。それも1回だけではなく、十数回。もちろん社長自らが説明をする場もあります。社員の提案に対する答えや、会社が動いていく方向性の話などを、社長から直接言葉で伝える。このときにも西川のこだわりがありまして「マイクを通すと伝わらない気がする」と言って、できる限り肉声で話そうとするんですよ(笑)。「後ろの人、聞こえますかー?」と聞いて、「聞こえまーす」といえば、「じゃあ、ちょっとマイクはやめて」と。1000名が集まったときは、なかなかそうはいかないですけども、生の声でリアルに伝えようという意識がすごく強いですね。『ご意見箱』の投稿に対する回答も、例えば社内に掲示するだけという方法もあるのでしょうが、それはしない。直接伝えるという意識が、すごく強いです。

    求める人材を育てるために、手作りの研修にこだわる。

    ────そういった仕組みと並行して、一人ひとりの社員の育成も重要ではないかと思いますが、人材教育はどのようにされているのですか。

    これも、当社ならではだなと思うものがいくつかあります。例えば『なりきり研修』という、車椅子介助や食事介助を体験する研修。車椅子は、押し方しだいで乗っている方が恐怖を感じることも実はあります。でもそれは、押す側の感覚だけを勉強していても分からない。実際に車椅子に乗ってみて、どういう速度だったら怖いのか、どれくらいの速度なら怖くないのかを実際に経験することで、初めて分かることです。食事の介助でも、介助する側だけでなく介助される側にもなってみて、相手の立場になりきることの難しさを体験します。

    ほかには、社会人としての『モラルマナー研修』というものあって、この研修ではまずは社会人としての身だしなみやメーキャップなどを学びます。また、2〜3カ月に一度、薬師寺の大谷徹奘師をお招きして、人としてのあり方や考え方についてのお話をいただいたりもしています。

    少し変わった研修では、『厨房、クリーン隊研修』という研修もありますね。当社には『クリーン隊』という掃除を専門にしている社員もおりますが、そうするとほかの社員は掃除をしてもらうことが当たり前になってしまいがちです。そこで、まずは新入社員の時期に一日かけて『クリーン隊』の仕事を体験し、その後も毎月『掃除の日』というのを設けて、全社員が自分で掃除をする日を作っています。

    社員食堂も、社員には愛情と栄養のあるものを食べさせたいという会長の西川の考えから、外部の業者には委託せずに、自社採用をした熊本のお母さんたちに、手作りで心のこもったおふくろの味の食事を作ってもらっていますが、その厨房の仕事も入社時に体験します。いつも感謝の気持ちを持つということが『ありたい姿』の一つであり、それには実際に自分で体験してみることが大事。商品知識や電話応対といった研修だけではない、人の気持ちになりきるための研修や講和というのはすごく独特な、当社なりのやり方かなと思います。

    ────社員食堂の厨房は外注せずに、御社で運営されているのですか。

    そうなんです。会長の西川が自分自身の役割として、「これからは、社員がいかに仕事をしやすい状況を作れるかに徹する」といいまして。例えば肉と魚のローテーションや味付け、どういう調理をしたほうが美味しいのかといった食事の面や、社内の設備の面に力を注いでいます。

    ────バイキング形式の提供方法も、ご飯、おかずと並べていたものを、おかず、ご飯の順に変えたと伺っています。ご飯は最後によそって温かいうちに食べられるようにというご配慮だと聞きましたが、本当に隅々にまで気を配っていらっしゃるのですね。

    正直にいって、会長の西川が一番いろいろなことに気がつきます。そして率先してやるものですから、その姿を見て学ぶことが非常に多いです。いかに喜んでいただけるか。それはお客さまに対してだけでなく、社員に対してもそういう気持ちをもっていますね。

     

    (写真左)『なりきり研修』では参加した社員から「相手の立場になって考えることの難しさ、自分にとって当たり前のことが、すべての人に当てはまるわけではないということがわかりました」という感想が寄せられた。

    (写真右)社員食堂。近隣の主婦が厨房に立ち、おふくろの味を提供している。社員の健康を保つことが社員の心の充実につながり、ひいてはお客さまに対するサービスの向上につながる。

    『再春館人』として必要な5つの能力を基準に評価を実施。

    ────「お客さまの満足度を高めるためには、まず従業員の満足度を高めよ」とよく言われますが、御社では本当に社員の方を人として大切にされているのですね。

    そうですね。人事考課でも実績の評価だけではなく、その人の人となりの評価が非常に大きなウエイトを占めます。もちろん売上は大事ですが、それは『お客様満足』を達成した結果としてついてくるものだと考えていますので、売上だけではない、お客様との会話の中身を評価する制度もあります。『育成カルテ』といいまして、お客様が尋ねておられることにちゃんとお答えできているのかといった、コミュニケーターの会話の内容そのものを評価するシステムです。

    コミュニケーター以外の社員も、実績評価以外に『再春館人度シート』という14項目の評価シートがありまして、それに基づいた能力評価があります。

    ────どういった項目があるのですか。

    『再春館人』として持ってほしい能力を5つ設定しまして、それらを分解した14の項目で構成されています。5つとは、『人にやさしくできる能力』、『自分で考える能力』、『実行する能力』、『あきらめない能力』、『自分自身を磨く能力』。例えば、『人にやさしくできる能力』は、『お客さまになりきれる能力』、『上司・同僚を理解できる能力』、『後輩に対する理解力』という3つに分かれます。数字でパッと見えるものではありませんが、そういう能力が高い人の周りには人が必ず集まっている。そういったところに表れる力だと考えています。

    この評価項目そのものが、どういった力をつけてほしいかというメッセージでもあるんですね。例えば、『上司・同僚を理解できる能力』は「イエスマンになれ」という意味ではなくて、上司が話している内容を表面だけでなく、その背景までも理解した上で、更に上司にどのタイミングでどういう情報を伝えると仕事がしやすくなるのかという、『人をうまく活かす力』といえばいいんでしょうか、そういう能力を身につけなさいという意味です。

    ほかにも、『実行する能力』の中には『仕事の公開』というものがありまして、これは仕事を自分で抱え込んでいてはだめだということ。今どんなことに悩んでいるのか、どういうことに行き詰っているのかをみんなに公開しなさいと。「仕事を抱え込むな」というのは、日常でもよく言われることです。公開するためにはコミュニケーションが必要になりますので、積極的にいろんな人に相談する、仕事の結果をちゃんと周囲に発表するといった行動が認められることになります。

    ────日ごろの行動が、評価の対象になるんですね。

    そうです。年次が上がると実績のウエイトが高くなりますが、年次が若いうちは実績よりも『再春館人度シート』のウエイトのほうが圧倒的に高いですね。『再春館人』の基本ができていないと、実績も残りませんから。

    ────ソフト面の評価は考課者の主観が入りがちですが、それに対する対策は何かされているのでしょうか。

    さきほどお話した『横串活動』を活用して、他の部署の社員も横串のメンバーを評価するシステムになっています。ですから直属の上司のほかに、参加している横串のチームのリーダーも評価するんです。最終の評価が決まるまでにも部署間の調整があり、次には横串活動の間での調整会議もあり、最終的な経営企画室での調整会議があり、といった形で、評価を決定するまでにトータルで30〜40人の目を通る仕組みになっています。

    当社は、仕切りのないワンフロアにすべての部署が入っていますから、「彼は表情が変わってきたね」など、社員の仕事に対する姿勢の変化が自然に分かります。面白いのは、その印象と評価結果のズレが少ないことです。例えば「今回、この人がこういう評価を取ったのは、こういうところに成長を感じるからです」というような発言が調整会議であったとします。そうすると周囲も「わかる、わかる」という反応になることが多いです。

    また、『社長招宴』という仕組みもありまして、これは毎月頑張った社員を西川が食事に誘うというものです。西川が自ら社員と直接話す機会をどんどん作っていることが、『ありたい姿』が伝わっていくことにつながっていると思います。

     

    そのほかにも、さまざまな表彰制度がある。評価の仕組みは表彰によって異なるが、会社として目指す『ありたい姿』が、すべてに共通する評価基準になっている。

    機械は精密ですが、機械にはできない仕事もたくさんあると思います。例えば、生産が大変な時期は私も生産現場に応援に入りますが──ときには西川も入ります──機械では間違いなく通るだろうと思う商品の小さな傷も、人の目なら見つけることができる。やはり『人』なんですね、重要なのは。ですから、社員を大事にすることが、お客様満足にもつながるのだと思います。

     

    製品はすべて手作業で検品が行われ、機械では検知できないほどの微細な傷も見逃さずにチェックされる。

    2001年に、7万坪の敷地を有する現在の工場『再春館ヒルトップ=薬彩工園=』が竣工。その6年後、2007年に、工場に隣接した新本社『つむぎ商館』が完成しました。後編では、『お客様満足』を実現するための仕掛けが随所になされているという、新本社の設計の工夫に迫ります。

     

    (写真左)新本社外観。建物の設計でも『自然との共存』をテーマに掲げ、太陽光パネルの自家発電システムを採用した。
    (写真右)本社併設の社内保育園。女性が長く働きやすい環境が実現されている。

*続きは後編でどうぞ。
  本物経営への道のり(後編)

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