2007年8月アーカイブ ..

株式会社インデックス・ホールディングス
経営戦略本部専任本部長兼人事部長 落合 俊之さん

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    M&A後のグループ成長を支える人事戦略とは(後編)

    昨今の新聞紙上では、敵対的買収が頻繁に取りざたされていますが、本来の企業買収とは友好に相互のシナジー効果を生み出すためのもの。その鍵を握るのは、M&A後の人と組織の戦略です。異なるカルチャーの企業をどのように取りまとめ、人事戦略の舵をどう切ればよいのか。国内外に70社のグループ企業を擁するインデックス・ホールディングスの経営戦略本部専任本部長 落合俊之さんに伺った後編をお送りします。

  • 株式会社インデックス・ホールディングスhttp://www.index-hd.com/

    1995年にモバイルのコンテンツ事業を手がける株式会社インデックスとして設立。2001年3月にジャスダック市場に上場。モバイル、エンターテインメント、ソリューションの3事業を軸に積極的な企業買収を展開し、国内約40社、海外約30社の一大企業グループに成長。06年6月に持ち株会社制に移行し、株式会社インデックス・ホールディングスに変更。

    TOSHIYUKI OCHIAI

    1967年生まれ。90年に株式会社リクルートに入社。HR領域各事業のコンサルティング営業・組織マネジメントを経て、04年から株式会社リクルートキャリアコンサルティングの立ち上げに従事。06年5月から現職。

  • グループシナジーは、『現場』のつながりから生まれる。

    ────これまでは、グループ全体の人材の採用はどのようにしてこられたのですか。

    事業会社のインデックスについていえば、中途採用中心ですね。グループ各社についても、各社各様です。ただし、事業会社のインデックスが新卒採用を今年度から本格化させ、グループ全体の新卒採用でも初の合同セミナーを開催しました。選考プロセスの共有化は難しいのですが、母集団作りからセミナーまではグループ合同で実施しましたから、学生に対してインデックスグループとしてのインフォメーションができた。そのことで、面白い人材がけっこう来ました。

    昨年まではモバイルビジネスに関心がある学生に偏る傾向があったのですが、今年は、グループシナジーを意識してインデックスグループ全体に関心を持つ学生が多いんです。モバイルとエンターテインメントをどうつなげるかとか。まさに私どもが目指していることに関心を寄せてくれたことには、手ごたえを感じました。

    結局、グループのシナジーを活かした主力事業というのは、グループ内の『人』が同じ目的意識でつながらない限りは生まれないものです。そういう意味では今年の内定者は、最初から同じ仲間だという意識付けがされている。これは今までにない試みです。

    ────既存社員の方々の中には、同じグループにどんな会社があるのか、全部はいえないという方もいるかもしれませんね。

    そう、いえないですね、きっと。ですから、グループの新入社員を集めてグループ会社の見学会も実施したのですが、これはとても評判がよかったです。「インデックスグループにはこんなにいろいろな事業会社があるのか」と。現場を見せることは、すごく大事だと思いましたね。それぞれの事業が自分たちの所属する会社のビジネスにつながったらどんなことが起きるのか。柔らか頭を持っている子たちですから、イマジネーションの力はあるんです。現場を見ることでそれがさらに刺激されて、グループ内に同期の横のつながりもでき、そこからビジネスが発生する。こういった土壌はどんどん醸成しようと思っているところです。

    ────現場を見るというのは、大事ですね。

    現場を見ないと、話は始まりませんね。パソコンの前に座って各社のホームページを見ていても、アイデアは湧きませんから。

    グループシナジーを生むためには、
    マネジメント力の育成が急務。

    ────新入社員の方がグループシナジーに大きな役割を果たすとなると、その定着率も重要な課題になるように思います。

    モバイルは人材流動が激しい業界ですが、実は、事業会社のインデックスでは7年前から新卒採用を始めていまして、一期生、二期生はすでに管理職にも就いています。これまでに辞めた社員はほとんどいないんです。新卒の定着率は非常に高いです。一方で、中途入社者の勤続は2、3年というケースもまだありますから、一人一人の従業員のフォローアップ・キャリアデザインは今後の課題ですね。

    ただし、実は、退職後に再入社する人も意外に多いんです。他社でスキルを身につけて、違った形でインデックスグループにもう一度参加したいというのは歓迎すべきこと。グループを出る時も応援したいですし、戻ってくる時も「ひと回り成長して帰ってくるなら待っているよ」という風土を作りたいんです。ですから事業会社のインデックスについては、人事部員が退職者と全員面接し、必ずそのメッセージを伝えるようにしています。そうしていると、退職者が集まって飲み会をやるときに呼んでくれたりするんですよ(笑)。

    ────珍しいことですね。

    「新しい会社に行って3か月経ったので近況報告させてください」と、連絡をくれるんです。うれしいですね。

    ────退職者の方と話す中から見えてきた組織の課題もあるのでしょうか。

    あります。すごく参考になりますね。特に、若手や中堅クラスで典型的なのは、上司とのコミュニケーションギャップが原因になっているケース。責任は、総じてマネジメント側にあります。育てる意識が薄いから、部下の目線で話していないわけです。上司と部下のコミュニケーションという基本的なことがうまくいってないところは、社員が定着しないケースが多いですね。逆に、部下とうまくコミュニケーションできる上司には、人がついてきます。中途入社者が多い組織ですから、前職でマネジメント教育を受けてきた人は部下と自然にコミュニケーションできるけれども、人によってバラツキがあるんですね。

    ────それはグループの共通課題でもあるのでしょうか。

    まずは、事業会社のインデックスとホールディングスについての課題ですね。ただし、グループ内にもマネジメント面の課題はたくさんあり、それについては各社の状況をヒアリングしている段階。基本的なマネジメントスキルの教育や戦略推進型のマネジャーの養成など、テーマは山積です。今後立ち上げる企業内大学(前編参照)が教育の場になるわけですが、グループの中でも優先順位をつけて、3カ年ぐらいをかけて整備していこうと思っています。

    ────研修をしても社員は変わらないという企業もあります。

    研修とは『気づきの場』であって、大切なのは、気づいたあとの現場のフォローアップ。「研修という機会を提供した」というだけで人事は仕事をした気になりがちですが、それだけでは社員は変わりません。上司がどのようにして研修後のフォローをするか、日ごろのケアができるかということがすごく大事なんです。一番ダメなのは、研修を受けた人間が変わろうとしているのに、それを上が潰しちゃうことですから。ワングレード上の人間は部下育成が最大の職務。そのことを意識づけしていく必要があると考えています。

    人と組織の課題は、先送りしてはならない。
    「やりきる風土」を作ることが、ホールディングスの役目。

    ────人事として取り組むべき課題がさまざまにある中で、優先順位はどのように整理されているのですか。

    いえ、まだ私自身もやっと課題を把握したという状態です(笑)。ただ、私どものようにM&Aで成り立った企業体の場合には、各事業会社のカルチャーがまったく違うという大前提がありますから、親会社のやり方ばかりを強制することはできないと思うんです。そうではなくて、事業会社をクライアントとして捉えて、各社と同じ目線で考えていけば課題は必然的に見えてくる。それに対して、グループとしてどのように取り組むかという点は意識しています。

    恐らく、個社で取り組んだもののうまくいかずに頓挫していることもあると思うんです。人と組織の問題は、先送りしようと思えばできるものも多いですから。そこに対して、グループ全体のポリシーを示して、きちっとやっていくということを事業会社の人事だけでなく経営層にも伝えていく。先送りせずにやりきることが人事領域の改革には不可欠であり、やりきる風土を作ることがインデックス・ホールディングスの役目だと思っています。

    ────人と組織の問題は先送りしてはならないということに、経営者の理解が得られないと嘆く人事の方もいます。

    これはもう、いい続けるしかないですね。例えば、「従業員は辞めていないか」と経営者に聞かれて「退職率は減っています」と答えると、「それならば、みんな満足して働いているんだ」と思う。一般的には、それが経営者というものです。けれども、それは大間違いですよね。そこで、「実は現場ではこういう問題もあるんですよ」と、人事が経営者の耳に入れられるかどうかなんだと思うんです。それには、人事が組織の実態を現場レベルで把握しているかことが不可欠です。経営者が現場にまで出張っていくことはありませんが、「こういうメッセージを経営の立場からも伝えてください」ということを、きちっとインプットする。落合(会長)は、朝礼などで組織の課題を意識したメッセージをよく話します。従業員からすれば、「最近の落合さん(会長)は、人と組織のことを気にしている」という実感が持てるだけで何か気持ちが変わるんです。そういう相乗効果は大きいですね。

    ────人事の方が現場をよく知っていることが大切なのですね。

    大切です。知っていないとダメですね。

    ────現場と人事の間に壁がある企業も多くありますが。

    ありますね。私は前職(リクルート)で、さまざまな企業の人事の方とお付き合いをさせていただきましたが、人事が現場を知らずに机上の論理で絵を描いている会社は、いろんな意味で組織がうまくいっていなかったですね。逆に人事が現場ときちっとコミュニケーションしている会社は、すごく現場にマッチした人事施策が打てている。私自身も後者でありたいと思いますし、現場が元気じゃないと会社は元気になりません。現場とのコミュニケーションは、大事にしたいと思っています。

    ────一般論になりますが、経営者や経営者の指示待ちになって問題を先送りにしている人事をどのようにご覧になりますか。

    そこには、そうなるに至った経緯があるはずです。人事としていろいろな事に取り組んでも、結局は経営者が「右」「左」「やっぱり右」というのに振り回されて、いくら努力しても組織は変わらない。結局は流されるしかないという、やりきれなさ感があるんだと思うんです。それなら上から指示がくるまで動かない方がいいという認識にもなりますよね。

    けれども、会社というのは現場が中心であるとはいえ、人事も会社を変革していくうえではすごく大きな役割を担っています。ですから、止まっているということは、ある意味では業務を拒否していることにもなる。だから一歩踏み出す勇気が必要で、踏み出して試行錯誤していることは必ず受け入られると信じています。特にオーナー色が強い会社ほど人事のご苦労は多いでしょうね。けれども経営者を動かすためにも、会社の戦略と人と組織の問題とをどうつなげるかということが、人事には求められているのだと思います。

    そしてもう一つ必要なのは、いい続ける努力。いきなり大きなことはしなくていいんです。日々の小さな創意工夫の積み重ねが大事です。昨日より今日、今日より明日、何か一つずつ変化の兆しを作っていく努力をしていけば、その積み重ねで絶対に変化は起こりますし、それが組織や個人を変え、大きな変革のエネルギーになっていくと思うんです。

    ────変革を積み重ねるにあたって、御社では社内の抵抗はありませんでしたか。

    ありましたよ。「今の仕組みを壊すことは悪だ」という風潮がありましたね。でも、現場の1人1人と話すと、根っこの部分では分かり合えるものなんです。やりたいことが潰されてしまったという、過去の体験がもとになっていることもあります。それなら、その障害を取り除けばいいだけの話で、道を作れば彼や彼女たちはやりたいことができる。成功体験を踏めば、人は変わります。ポテンシャルのある社員が多いので、置かれた環境によって自分で自分をセーブしているのは、すごくもったいない。特に30前半の人材。これぐらいのスケールの会社なら力も発揮しやすいですし、いろんな経験ができるんですから。

    そういう意味では、来たときに比べるとずい分とやりやすくなったなと思いますね。後は、現場とどれだけつながることができるか。「現場の子たちが少し疲れている」という話を聞けば、個別に呼び出して食事をしながら、いろいろと相談に乗るようにしているのですが、そういう風にしていると現場からもいろいろな情報が入ってくるんです。ベタなやり方ではありますが、人を大事にしていこうと思っています。

    用件があるときは、親会社に呼ぶのではなく、
    こちらからグループ会社に出向く。

    ────ホールディングスの人事として、グループの事業会社との役割分担をどのようにお考えですか。

    そこは難しいところで、親子の関係で"おんぶに抱っこ"にはなりたくないんですね。ホールディングスも事業会社も、同じ土俵で一緒なんです。会社の構成上は親会社という立場ですが、互いの悩みを相談しあう関係でありたいと思っています。

    それに何よりも、事業会社の人事の方々は私より年長者ばかりですから、教わることが多いというのも現実。それこそ、ホールディングスの人事よりも立派な人事部門を持っている事業会社もありますから、私たちが勉強させてもらうことも多いんです。といってもいろいろご相談もいただきますが、各社で解決すべきことは各社主体で進めていただいて、私たちがリソースを提供できることはしますよと。いってみれば親会社、子会社という関係ではなく、会社の垣根を越えて、グループの総合人事機関として機能していけばと考えております。

    ────事業会社の人事の皆さんは、持ち株会社制に移行したことに構えるということはないのでしょうか。

    それはありませんね。私たちも意識していることがあるのですが、何か用件があるときには、こちらに呼ぶのではなくこちらから出向く。これは大事です。世の中には、グループ会社を呼びつける親会社もあるようですが、私はああいうのは大嫌いなんです。その段階で、上下の関係ができてしまう。そんなことをしていては、絶対にうまくいきません。人事のメンバーにも、「何かあったらこちらから行け」、「呼びつけてはダメだ」と、これは徹底するようにしています。

    今後立ち上げる予定の『HRフォーラム』(グループ内の人事担当者の交流会。前編参照)も、1回はホールディングスで開催しますが、後は各会社が持ち回りでやろうと思っているんです。

    ────そうすると、皆さんの職場見学も兼ねることができますね。

    そうなんです。お互いにどんな会社なのかを知るためにも、持ち回りでやろうと。こちらから行くということは、すごく大事です。

    ────IT企業としては、情報共有はネット上でされるのかと思っていました。

    情報にはデジタルとアナログがある中で、特に『人』に関する事はアナログに対応する部分も大事です。ITのメールカルチャーを反映して、グループ会社の人事の方から長文のメールを受け取ることもあります。けれども私にとってのコミュニケーションは、電話か会うことが基本。ですから、長文のメールがくると「今から会いましょう」と、まず電話します(笑)。その方が速いでしょう。「こちらから行きますよ」と。

    ────落合さんにとってホールディングスの「人事」というのは、どういう場なのでしょう

    自分自身を成長させてもらえるフィールドだと思っています。前職(リクルート)の経験は活きますが、前職ではできない経験ができる。経営者(落合会長、椿社長)にも恵まれまして、「お前がやりたいなら、やれ」と、全権委任で任せていただいている。ですから、制約条件がない中で取り組むことができる。それは、失敗は許されないということでもあり責任は重いのですが、日々が楽しいですね。未だに学習する意欲が出てくるという環境に身を置けるのは、すごくありがたいことだと思っています。

    ────ありがとうございました。

株式会社インデックス・ホールディングス
経営戦略本部専任本部長兼人事部長 落合 俊之さん

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    M&A後のグループ成長を支える人事戦略とは(前編)

    昨今の新聞紙上では、敵対的買収が頻繁に取りざたされていますが、本来の企業買収とは友好に相互のシナジー効果を生み出すためのもの。その鍵を握るのは、M&A後の人と組織の戦略です。異なるカルチャーの企業をどのように取りまとめ、人事戦略の舵をどう切ればよいのか。国内外に70社のグループ企業を擁するインデックス・ホールディングスの経営戦略本部専任本部長、落合俊之さんに伺いました。

  • 株式会社インデックス・ホールディングスhttp://www.index-hd.com/

    1995年にモバイルのコンテンツ事業を手がける株式会社インデックスとして設立。2001年3月にジャスダック市場に上場。モバイル、エンターテインメント、ソリューションの3事業を軸に積極的な企業買収を展開し、国内約40社、海外約30社の一大企業グループに成長。06年6月に持ち株会社制に移行し、株式会社インデックス・ホールディングスに変更。

    TOSHIYUKI OCHIAI

    1967年生まれ。90年に株式会社リクルートに入社。HR領域各事業のコンサルティング営業・組織マネジメントを経て、04年から株式会社リクルートキャリアコンサルティングの立ち上げに従事。06年5月から現職。

  • 買収先の人材と組織は温存。
    育てて伸ばす『再生型』M&Aにこだわる。

    ────まず始めに、インデックスグループ様のこれまでの急成長を支えてきた、人材戦略や組織戦略についてお聞かせください。

    私は昨年の5月に入社しましたので、株式公開してから急速に、海外も含めて70社の企業グループに拡大してきたその場にはいなかったのですが、やはり一番大きいのは現インデックス・ホールディングスの会長である、創業者の落合の存在ですね。そもそもビジネスに対する目利きが素晴らしく、短期間で事業の多角化を実現してきました。『再生型』のM&Aが落合(会長)の手法です。経営者や従業員に勇気を与えて、マインドリセットしてチャレンジしていただく。そこにインデックスグループのリソースを付加することで、新たな付加価値を創出し、その会社を新しいステージに持ちあげていこうという考え方なんです。

    勿論、再生の過程で結果を出せない状況では、インデックスから人材を派遣して、管理体制の強化も図りますが、基本的には組織は壊さない。ですから大きくグループ全体の組織戦略を持って急成長してきたかといいますと、基本的には各事業会社に権限委譲し、経営を任せきたという感じですね。

    ────なぜ、『再生型』のM&Aにこだわるのですか。

    落合(会長)がよくいうのが、「人は必ずどこか良い所がある」ということ。「人の良い所を見出して適材適所で配置すれば、必ず人はよみがえる」と。これは、落合自身が、新卒で入社した日商岩井(現・双日)から赤字の子会社に副社長として出向し、そこの建て直しに成功しているんです。34歳のときのことです。2年連続で赤字の会社を1年で黒字化させた影には、既存社員をいかに動機付けて、仕事を楽しませるということを徹底的にやったという改革があった。落合(会長)の原体験はそこにあると思います。

    要は、人も組織も明確な方針と、動機付けを徹底して行うことで、新たな成長の機会を創りだせるということです。M&Aでも、自分がしゃしゃり出て行くのではなく、後ろからサポートしながらどうにかして買収先の自信を回復させたいという思いが強いですね。

    ────しかし、そういった手法では、買収先が再生するまでに時間がかかるのではないですか。

    そうですね。実際に、05年9月に子会社化した日活も、落合(会長)の言葉でいう「義務教育が終わった」のは最近のことですからね。「義務教育が終わる」というのは、インデックス・ホールディングスの援助を得ずに自力で資金調達ができ、事業部門の利益が出ることなのですが、日活は丸2年かかったことになりますね。

    ────時間がかかるのも止むなしということなのでしょうか。

    それは個社の業態によって変わりますが、特にエンターテインメントの世界は作品のヒットがあるかないかで左右される部分が大きいですね。ですから大切にしなければいけないのは、作品作りに対するこだわりです。日活は大正元年に設立された会社で、石原裕次郎さんなどを生み出した映画界の人材輩出企業。作品作りのプライドも含めた『日活マインド』がよみがえらなければ『再生』とはいえません。それが2年で軌道に乗ってきたわけですから、逆にこれからが楽しみですね。現在、社長に就任されている佐藤の事業に対する熱い想いも、従業員を奮い立たせているのだと思います。人を通じて組織が変わる典型的なケースかと思います。再生についてはその位の長いレンジで見ています。

    M&Aの宿命ともいえる課題、
    人と組織の融合に挑む。

    ────急成長する新興企業は、自力成長する企業と買収を中心に成長する企業に分かれるように思います。御社が後者を選択されたのは、どのような戦略からなのでしょうか。

    インデックスグループとして目指したい領域に合致する領域の事業は、ゼロから作った方が速いのか既存事業会社を子会社化した方が良いのか、という問題があります。モバイルコンテンツやITネットのビジネス領域は日進月歩ですから、『時間を買う』という発想が必要になるわけです。単に多角化を狙っているわけではありませんから、事業ドメイン以外のものには、一切手を出しません。ただし現在、国内40社、海外30社というグループフォーメーションになり、落合(会長)が目指す『メディアのコングロマリット』構想がほぼできあがってきました。モバイル事業ならインデックス、エンターテインメントの映画なら日活、アニメならマッドハウス、ゲームならアトラスというように、各コア事業領域で中核になる会社もできてきた。今後は、こうした中核会社群にグループのリソースを投下して、各マーケットにおいて、特徴あるビジネスモデルを創りだしていくことが必要となります。

    ────買収による成長には時間が節約できるメリットがある一方で、デメリットも抱えているように思います。それはどうご覧になりますか。

    勿論、デメリットというか課題はありますね。やはり、人事の立場で見ると人の問題は大きいです。インデックスが上場直後からのグループ企業もあれば、最近、新しくグループに入ってきた会社もあるわけです。そこにインデックスグループとしてのビジョンをどう浸透させるのか、グループとしての人事ポリシーをどう浸透させていくのか。これは難しい問題です。結局、私共のグループの事業を創りだしていくのは、やはり『人財』なんです。一人ひとりの従業員が生き生きと働き、新たな価値を世の中に提供し続けていくことが、インデックスグループの存在意義なんです。なおかつ、グループ全体という視点でビジネスの可能性を見れば、新たな事業創出の種はグループ内にもあったりする。そうしたビジネスの機会を、多様な人財で創り出していくことが、今後の大きなテーマとなる。出身母体の違ういろいろな人たちがコラボレーションできるようにするにはどうすればいいのか。人と組織の融合は、本当に難しいですね。

    ────これまではどんな風にされてきたのでしょうか。

    インデックスの人事部門とグループ会社の人事部門とはあまりパイプを持たず、それぞれの人事・組織戦略で運営してきました。しかし、06年6月に持ち株会社制に移行したことを機会に、この1年間でいろいろと体制を整えてきているところです。

    ────では、グループ各社の人事部門との交流も始まるのでしょうか。

    そうですね。色々と協働での取り組みをスタートしていきたいと考えてます。昨年、私が着任してまず数カ月でやったのは、各グループ会社の管理部門への挨拶回りです。ホールディングスにとってのグループ会社は、ある意味ではサービスを提供するお客さま。そういった目で見ていけば、一社一社に採用や人材育成の課題も見えてくる。各社ごとの人事領域の課題が把握できました。共通の課題もあれば、業界特有の課題、個社の課題もある。そこで来期からの施策として考えているのが、グループ全体の『HRフォーラム』のような場を設けること。各社の人事課題を定期的に共有化して、課題解決のアクションをとっていく場として、また、ダイバーシティマネジメントの推進といった新たな領域への取り組みなど、共通の課題としてグループALLでチャレンジする場としても活用したいと考えています。人材育成のプログラムや労務リスク管理の手法など、いいリソースを持っているグループ会社もあったりします。専門性の高いご経験をされている人事部門の方も多い。このリソースを使わない手はないと思いますね。

    ────M&Aで成長してこられたからこそのリソースですね。

    そうです。今まではそのリソースが点でしかなく、つながっていなかった。ですから、各社とブレストの機会を設けて、課題の共有と具体的なアクションイメージが共有化されると、お互いに「一緒に頑張りましょう」という雰囲気になりましたね。そのような、各社とのコミュニケーションを通じて、今後は、先ほど話しました「HRフォーラム」を4半期に1回必ず開催して、グループ各社の人事メンバー間のコミュニケーションの場を設けていきます。単なる情報共有の場だけにするのではなく、グループとして取り組むべき人事領域の課題に対して、テーマ別に精通した各社の人事メンバーで構成した、小分科会も実施して、クロスファンクションでグループの課題解決にもあたっていきたいと考えてます。そうした協働の機会を得ることで、各社人事部門間でのコミュニケーションを促進していくと考えてます。インデックスグループとして、更なる成長を支える上で、人事の存在は、非常に重要です。グループの人事スタッフの更なる成長機会の提供も非常に大事と考えています。

    ────その構想に対するグループ各社の受け止め方は、いかがですか。

    総じてウエルカムですね。各社も人事部門のリソースが足りないんですよ。ですから、グループ間の交流の旗振り役がいて課題を共有化するというのは、特に人事領域に関しては非常にウエルカム。もっと促進してほしいという感じですね。

    グループ共通の教育機関を立ち上げ、
    グループとして経営人材を育てる。

    ────人事部門の交流が進むことで、グループ全体の人事・組織戦略はどのように変わってくるのでしょうか。

    具体案の一つとして、グループ共通での採用・人財育成の機会を作っていきたいと考えています。現在は、インデックス・ホールディングスの人事部は事業会社のインデックスの人事部も兼務してますが、来期(9月)から事業会社のインデックスにも人事部門を作ります。インデックス・ホールディングスの人事部はグループ全体の人事戦略を担うというように役割を明確に分けていきます。

    そして、グループ全体に横串をさすために『人財開発センター(仮称)』をインデックス・ホールディングスに設けます。人財開発センターはグループ全体の採用代行や人財育成を手がける。その一環として、来期(9月)から企業内大学的な機能を立ち上げようとしているところです。仮称で『インデックスユニバーシティ』と呼んでいるのですが、グループ内の社員は誰でもオープンに研修の情報を得て受講できるという仕組みを考えています。個社ごとの専門スキルに関する教育は個社で実施すべきでしょうが、新卒入社の早期戦力化・マネジメント層の育成・グループとしての経営人財をどう育成するかということは各社共通の課題。そこはインデックス・ホールディングスで集約化して、3カ年ぐらいをかけてきちっとした育成体系を作っていきたいと思っています。

    補完機能としては、日産自動車が社内イントラネットで運営されている『Learning Navigation(通称:らーなび)』のような機能を構築していきたい。といってもあそこまで壮大なものはできないと思いますが、自分の次のステージ(キャリアアップ)を考えた時に、どのようなスキルが必要になるかをナビゲーションできるものにしたい。会社から「これは受けてください」という研修も必要ですが、それよりも自分から率先して受けられるような教育体系がいいなと思っています。自律的な人財を、一人でも多く育てていくことが今後の大きなテーマとなります。また、グループ共通の企業内大学ができることで、研修がグループの人的なコミュニケーション・シナジーの場作りにもなると見ています。研修受講後も、各々の仕事でも接点を持つことがあると思いますし、研修という場が、グループ内の人財接点の場となっていくことも期待しています。

    また、研修を通じて、インデックスの『DNA』を共有するための場になったらいいなという思いもあります。落合(会長)や小川(株式会社インデックス・代表取締役社長)が口伝えできた時代はよかったのですが、この規模になってくると落合(会長)はグループの社員からすると雲の上の人になっています。落合(会長)自身はその立場を良しとはしていないのですが、多忙ですからグループの社員とコミュニケーションする機会も中々取れない。そこで研修の場を通じて、落合(会長)が思うグループのあるべき姿やインデックスを作ってきたいろいろな苦労話を、グループの従業員の方と直接接点を持つことで、グループ従業員の中に『DNA』の浸透を図れればと考えているんです。

    ────インデックスの『DNA』とは、どのようなものですか。

    「新しいことを世の中に仕掛けていく」ということでしょうか。そして、ベンチャースピリッツ的なところかと思いますが、「既成概念を壊していく」ということ。元々モバイルコンテンツビジネスという領域も、世の中に存在していた訳ではなく、当時は海のものとも山のものとも分からないものでした。落合(会長)に言わせると、当時のビジネスの可能性と資金力から考えるとモバイルコンテンツ事業への取り組みがジャストサイズだったと言っています。徹底してこだわったポイントは、新しいコンテンツの開発でした。結果的には、iモードという大きなインフラと一緒に成長させてもらったわけですが、その中でいかに独自性を発揮するかということにこだわって、いくつものヒットコンテンツを世の中に提供してきました。そうした創業期からの『DNA』を、今後、言語化して、グローバルも含めて、スピリッツを組織浸透していければと考えています。

    グループ内の人材の流動化が進めば、
    事業へのシナジー効果も大きい。

    採用も、『人財開発センター』が窓口になることで、グループ全体を見据えた動きができるようになります。今は各社ごとで採用を行っているので、応募者の共通データベース化ができていないために、すごく無駄があります。しかも、企業によっては、その時々で必要な技術やスキルを持っている人材を採用する傾向が顕著にあります。しかし、モバイル・IT業界では、技術進歩が激しく、極端に言うと、半年後にはその技術は不要になっているということも考えられます。中長期の事業戦略も見据えて、人材ポートフォリオ・雇用ポートフォリオを明確化して、多様な雇用機会、就業機会の創出にもチャレンジしていかなければなりません。

    そういった採用や人材の適性配置をグループ全体である程度集約すれば、例えば「彼は、グループ会社のここに行けばもっと活躍できるね」といったジョブフィッティングができます。そうすると人材の把握もできますし、ご本人のエンプロイアビリティ(雇用される能力)を上げるための機会も提供できる。グループ全体として幅広く事業を展開していることの強みが活きてくると思うんです。

    ────グループ内の人材の流動化が進めば、事業へのシナジー効果も大きいですね。

    そうです。ただしそれには、人事制度が揃っていないという大きな壁があります。国内40社の各社ごとに人事制度がありますので、その乗り換えルールを整備する必要があります。インデックスグループの各事業は、多様な業界に属していますので、制度を一本化するのは、現実的に厳しいんです。来期中に、グループ全体での『人財公募制度』を導入しようと考えています。それに合わせて、乗り換えのルール付けも定義しようと考えています。連結経営における海外事業の拡大もあり、海外でも活躍できるグローバルな人財育成も急務です。海外のグループ会社にいる若手社員も含めてグローバルなローテーション制度も導入したいと考えています。まずは毎年3人位を目安に、日本と海外のグループ企業間での若手人財の交換留学制度のようなものとなります。

    ────では、グループ内にどんな人材がいらっしゃるかを把握することが、ますます必要になりますね。

    そうなんです。理想は、『キャリア・オポチュニティ・システム(グローバルな公募制)』などの施策を持つGEの人材開発戦略ですが、あれは本当に"理想"。現在、海外も連結すると約3000人の従業員がおりますが、この人材の『見える化』が急務で、まずはグループのマネジメント層以上の人員の把握を、できれば来期中には終わらせたいと思っているところです。今後は採用手法も変えていきますし、グループシナジーの発揮に向けてさまざまなことが動き始める予定です。

    (後編では、採用手法の変革や親会社の人事としてのあるべき姿に迫ります)

*続きは後編でどうぞ。
  M&A後のグループ成長を支える人事戦略とは(後編)

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