2007年6月アーカイブ ..

株式会社コスモスライフ
取締役 石﨑 順子さん

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    社員の多様性を活かす組織とは

    『ダイバーシティ』の概念を組織運営に取り入れようとする企業が増えています。個々人によって異なる属性や価値観を認めて活かすことで、ビジネス環境の変化に対応する柔軟性が組織に生まれ、利益の拡大にもつながる──社員の多様性を活かせるのはどのような組織なのか。株式会社コスモスライフの石﨑順子取締役に伺いました。

  • 株式会社コスモスライフhttp://www.cosmoslife.co.jp/

    1976年にリクルートグループのマンション・ビル総合管理会社として設立され、2005年にコスモスイニシア(旧リクルートコスモス)がリクルートグループから独立したことに伴い、コスモスイニシアのグループ企業となる。目に見えない『管理』というサービスを支えるのは『人』と『情報』と考え、人材の採用・育成に注力。独自の建物管理システムも構築し、専門性の高いきめ細かなサービスには定評がある。

    JUNKO ISHIZAKI

    1983年にリクルートに入社。リクルート、リクルートコスモス(現コスモスイニシア)で主に管理部門(人事・総務・事業統括等)全般にわたり業務に携わる。1994年にダイエーの福岡ドームプロジェクトに出向、アフリカをテーマにしたリラクゼーション会員制クラブ"ソトコトクラブ"のプロデュース運営を手掛ける。99年にコスモスライフに入社。2005年に取締役に就任。

  • 20代から70代まで、3000人、40職種が働く。

    ────御社の新卒採用のホームページに「人と風土が自慢の会社」とあるのを拝見したのですが、どのような風土を築かれ、社員の方々のモチベーション向上にどのような仕掛けをされているのか。今日はそこをお聞きできればと思っています。

    そうですね。まず、お話の前提として当社のことを少しご説明しますと、社員は約3000名、平均年齢は56.37歳になります。フロント(受託先のマンションや建物に常駐する)スタッフも多いためにこういう年齢になっているんですね。ですから、いわゆる総合職的な社員は、3000名のうち約300名、平均年齢でいうと37歳くらいでしょうか。新卒入社のプロパーはその中の約4分の1程度で、全社で考えますと、ほとんどが中途入社のメンバーで構成されている会社です。

    フロントの2700名の中にも、正社員、一年契約の契約社員、嘱託社員、パートとさまざまな雇用形態があり、職種も40職種くらいあるんです。なおかつ、その40職種の人たちが一堂に会することはなく、それぞれの現場に分かれて働いている。そういう特殊な状況が、人事施策の大前提としてあります。

    ただ一つ言えるのは、リクルートが母体の会社だったものですから、そのエッセンスは今も大事に受け継がれているように思います。経営に一番大切なのは人だという考え方や、男女もなければ年齢、学歴など何にもとらわれない風土があるんですね。もっといえば、リクルートをさらに進化させた形になるんじゃないかとも思います。世の中でいうところの『ダイバーシティ』を、自然に考えざるをえないわけですから。そんなことが、当社の人事施策や方針のベースに流れているように思います。

    ────何にもとらわれない風土というのは、具体的にはどのようなことなのでしょうか。

    例えば、マンションにはフロントマネージャーと呼ぶ管理人がいますが、それとは別に管理組合の運営をサポートする担当者がいるんですね。一人あたり十数棟を担当する仕事なのですが、同業他社ではほとんどが男性という中、私どもは『アメニティコーディネーター』と呼ぶ女性が中心です。平均年齢は、40代半ばぐらいでしょうか。

    総合職の仕事でも、特定の部門しか女性を配属しないという考えが全くなくて、例えば工事部門でも実際活躍しているメンバーもいますし、女性が大卒男子の採用に関わるということもあります。当社ではそれも普通のことですけれど、「そんなことを女の子にやらせるの」と社外の方にいわれることはありますね。フロントマネージャーの3割以上も女性で、同業他社よりかなり多いと思います。

    採用にはあくまでもこだわり、時間とパワーをかけて、応募者の仕事観を確認。
    ベクトルを共有することで、多様性が活かせる。

    ────毎年、さまざまな年齢の、さまざまな職種の方が入社される中で、そういった自由な風土を保ち続けられるのは、どうしてなのでしょうか。

    どうしてでしょうか(笑)。一つ言えるのは、特にフロントマネジャー(現場の管理人)などについて結果的に高い倍率で採用しているということはあります。60人か70人に1人という合格率なんです。そういう意味では、考え方や働くスタンス、基本的な能力といったことを見極めて採用していますね。面接だけでなく筆記試験もありますし、採用する前に2時間ぐらいの短い体験もしてもらい、その様子も観察する。そういったことも踏まえてでないと採用を決定しないんです。採用するまでのプロセスにはものすごく手間と予算をかけていますね。

    採用後も、現地に赴任する前に4日間の研修があり、赴任後もエリアリーダーから2日間の現地研修、本部の教育担当者からの2日間の現地研修、その後も何回か定期的にフォロー研修があり、それらを通して思想や考え方、風土といったものが少しずつ新しい人にも受け継がれているような気がします。フロントマネージャーは58歳〜63歳くらいで入社という方が多いのですが、入社式もちゃんと毎月行っています。

    ────採用目標がある中で、一人でも多く採用したいと思うことはありませんか。

    ありますよ。ですが、サービスの最前線が崩れると会社そのものの価値がなくなりますから、人材の質にはこだわりたいんです。アメニティコーディネーターも同様に、倍率はかなり高いです。責任ある業務を任せられるかどうかを面接では確認しています。

    ────これまで男性中心でやってきた職種に女性を配属すると、すぐに辞めてしまうのではないかということを心配する企業もあります。

    単純に事務をしたくて入社した女性を配置転換したら、それは辞めてしまうと思いますが、目的意識や仕事に対する考え方がしっかり確認できていれば、大丈夫なんじゃないでしょうか。それだけに、簡単には採用はできません。価値観やその人の強み、弱み、今後のキャリアや目標などを確認して、それを採用の基準にする。通り一辺倒の面接では、採用できないんですね。

    ────同じことは、新卒採用にも当てはまりますか。

    当てはまりますね。説明会を開いて一次面接、二次面接、最終面接で決定、という機械的なプロセスではなく、5人、10人単位の少人数で合い、じっくり話し込んでいくという選考をしています。いろいろな社員に何人も会せたり、場合によっては現地に行かせたり。こちらも学生を選びますが、学生にも当社を見極められる機会を作って、最終的に残った学生を採用しているんです。最終面接までに7、8回は来社する、というケースもザラにありますよ。

    ────多いですね。

    多いです。入社後に、「思い描いていたこととギャップがありました」なんていうことのないように、いいことも悪いことも知ったうえで、「それでも決意できるなら来て下さい」という採用方法をとっているんです。それでもまだ、「ギャップがありました」なんていうことが、入社後にたまに起こったりもするんですけれど......。

    ────先輩社員の方々も、採用にかなり巻き込まれているのですね。

    そうですね。でも、喜んで学生に会いに来ますよ。大好きなんですね、そういうのが。一緒に働く仲間を選ぶといいますか......(笑)。

    ────採用規模はどれぐらいでいらっしゃるのですか。

    新卒は15人くらいです。もっと採用したいのですが、こういう選考方法ですので、毎年、それくらいの規模でしか採用できないですね。

    当社の業務は縁の下の力持ち的な仕事ですし、業界としてもまだ成熟していない、学生にとってはわかりにくい業界だと思うんです。ですので、こちらも学生とはものすごく話し込みますし、学生もそれなりに情報をたくさん取り込んで、自分の価値観や考え方といったものを整理したうえで決めてきます。

    ────そうすることが、入社前の動機づけにもなりますね。

    そんな側面もあるかもしれませんね。「人の役に立ちたい」というような価値観や、「自分をこう鍛えたい」といった生き方にも関わる目標を持って決めてくれる学生が多いことが、とてもうれしいなと思います。「企画的な仕事がしたい」とか、「業績を作って一旗揚げるんだ」といった、表面的な決め方ではないんですね。自分自身の内面に入り込んだところで会社に対しての思いを持って入社してくるというのが特長かもしれません。

    ────面接では、どの程度まで内面的な話をされるのですか。

    どの程度というのも難しいですが、何のために働くのか、働くことで何を得たいのかということを重視して、複数の社員が会う中で確認していくということでしょうか。いろんな場面でいろんな発言を聞く中から、何となくわかってくるといいますか。よく「人と接するのが好きです」という学生が来るんですが、「どんな仕事でも人と接するよ」と返すんです。どんな接し方がしたいのか、それが自分にとってどういう価値があるのか、人と接した結果どういう風になりたいのか、何をしたいのかということが必要だと。そういう掘り下げた話をしますね。「人と接することが好きです」というのは、ほとんどの学生がいいますが、面接本にでも書いてあるんでしょうか(笑)。それを聞くといつも、「また?」と思うんですよ(笑)。

    一方で、「当社をなぜ志望しますか」ということは、あまり聞きません。聞いてもいいことしかいわないですから。そもそも本人が何をしたいのかを聞いたうえで、それを当社にあてはめるとどういう風に実現できそうなのかという、結果論でしかないんです。ですから、面接も途中からは就職相談になりますね(笑)。

    ────カウンセリングのようですね。

    そう、カウンセリング(笑)。途中で自分自身に気付いて、泣き出す学生もいます。きっと悩んで、思いつめていたんでしょうね。うちの部長や課長などは、考えがまとまっていないという意味で甘い考え方の学生がいると、ときには説教をするわけですよ。「それは違う」と。そうすると、「初めて怒ってもらいました」と。そういうことに学生は反応するんですね。そんな採用をしています(笑)。

    ────内定辞退はどの程度ありますか。

    少ないですよ。辞退者が出る年もありますが、昨年は一人もいませんでした。

    ────入社後3年間の離職者が多いことに悩む企業もありますが、その点はいかがですか。

    その問題はありますね。2割はいかないと思うんですが、やはり退職者が出ます。描いていた理想と現実のギャップが思った以上に大きかったり、「自分を鍛えるんだ」なんていって入社しても、鍛えられ方が考えていた以上に厳しかったり(笑)。マンション管理という仕事は、継続して初めて認められるようなところがあって、自分が今やっていることの成果が実感しにくい。中には理不尽なことや無理難題をいわれることもありますから、ストレスも溜まりますし、悩んだりということもあるようです。

    ────そうしたときに、どのようにすればモチベーションを向上させることができるのでしょうか。

    うまく何かできないかとは思っていますが、お仕着せのプログラムを作るというのも違う気がするんですね。これは昨年から始めたことなんですが、先輩社員を何人か選びまして、1年目や2年目の社員と交流する場を設けています。直属の上司や先輩とは違う社員と話すことで、目の前の仕事以外の視点や考え方に触れる機会を作ってあげたいと考えているんです。結局は、飲み会だったりするんですが(笑)。

    一人一人のお客さまに相対する地道な仕事をしていると、「こんなことをしていて、自分にとって何の意味があるのか」という気持ちになることもあると思うんです。人間ですから。そこを、先輩社員と話すことで、自分自身の目標や使命感が持てるようになるといいなと思っています。

    社内コミュニケーションは、量が質を生む。

    ────採用以外に、御社の風土に影響を与えているものは何かありますか。

    普通の会社ですと、社長がいて、役員がいて、管理職がいてとピラミッドがあると思うんですが、当社はどちらかというと逆の発想。最前線にいるフロントマネージャーや実際にお客さまに相対している人たちが一番大切で、それ以外の人は現場を支えるという概念を持とうということは、社内に対してよくいっています。

    また2年前に、リクルートグループからコスモスイニシアグループへ変わりましたので、それを機にグループのステートメントを新たに作成しました。そこでのキーワードに、『Empathy(エンパシー:共感すること)』というものがあるのですが、お客さまの本音やお客さまが気付いてない要望までを汲み取っていこうということをステートメントとして標榜しています。

    ステートメントも、社員に自由に手をあげさせて立ち上げたプロジェクトで作成したんです。「やりたい人は手をあげて」と募ったら、グループ全体で百数十名の応募があり、その中から20名程度を選抜するつもりだったのですが、経営陣が選べなくなってしまいまして(笑)。いったん全員で議論を始めてみようなんてことになって、グループ内の各社をあえて混ぜるようにしてチームに分かれてワークショップをしつつ、発表会みたいなこともやりつつ、作っていきましたね。会ったことも話したこともない、いろんな年齢層の人が集まって、まずは議論を始めることができたこと自体が、収穫だったと思います。

    ────ステートメントや経営理念を明文化しても、組織に浸透させることに苦労される企業も多くあります。

    ここでもまた、手間をかけているかもしれませんね。ステートメントに基づいた行動指針もあるのですが、それを実際の業務にどう反映させるのかといったことを、各支社の単位で議論しています。例えば、従来は支社に集まっていた業務の打ち合わせも、そのマンションのことを話し合うのであれば現地でやったほうがいいじゃないか、とかですね。小さなことかもしれませんが、「打ち合わせは現地で行え」と指示してもなかなか浸透しないと思うんです。でも、自分たちで納得して決めたことなら実行できます。

    ────そういったご意見が社員の皆さんから出てくるのは、素晴しいですね。

    一つ一つは細かいことでも、それを積み重ねていければいいなと思います。経営陣はステートメントを通して大きな目標を示す。社員は小さなことも大切に、一つ一つその目標に向かっていく。その両方が大切なんですね。

    フロントマネジャーといった最前線の人たちにも、ステートメントをもとに自分たちはどうしていくのかといったことを、自由に議論する研修を行っています。ステートメントの内容を腹に落として、自分の事にしていくということですね。

    ────各現場にいらっしゃるフロントの方を集めてるということも、また手間がかかることですね。

    手間は、すごくかけていると思いますよ。研修以外にも、新規事業や新しい業務改革の提案制度というものもありまして、年に1回、全従業員を対象に募集して表彰しています。そういう意味では、いろんな仕掛けをしているとは思いますね。

    ────フロントの方々は、そういう取り組みにどう反応されるのですか。

    意見や提案は、活発に出てきますよ。一方で不満が出てくることもあります。「現場でお客さまから直接要望を受けても、オフィス側がすぐに対応してくれない」とかですね。

    ────いい意見だけではないんですね。

    不満もいっぱいあります。けれども、「お互いにいい合って一緒に解決しましょう」といっているんです。年に1回、支社ごとに『キックオフ』という期の始まりに際しての場を設けているのですが、そこでフロントマネージャーが「オフィス側にも問題はあるが、まずは自分たちからできることを始めたい」と研修の成果を発表してくれて、みんなで熱く盛り上がったこともありました。

    ────物事を他者のせいにせず、自分の事として捉えるというのは、なかなかできることではありませんね。

    そうですね。そうやってうまくいっている面もあり、まだまだうまくいっていない面もありという状況ではありますが、行動指針の中にも『自分事にする』という項目を入れていまして、実際の業務に当てはめればどうなるのかということを、研修したり自由に議論したり。そんなことを積み重ねています。

    昔は、オフィスにいる者と現場での担当者の間に溝があったような気がしますが、みんながなんとかそこを埋めていきたいと意識していくことで、コミュニケーションはよくなってきているんじゃないかと感じています。

    ────何か、きっかけがあったのでしょうか。

    これ、という特定のものではなく、いろんなことをする中で変わってきたということかもしれませんね。例えば社内報一つとっても、意識していろいろな現場のスタッフに登場してもらったり、月に1回、フロントマネージャーが集まる『エリア会』に、支店長なども積極的に参加していろんな情報を交換したり。

    ────以前は、オフィスの方は参加していなかったのですか。

    参加しないこともあったように思います。参加したからって、何かが急に変わるということはないんですが、まずはコミュニケーションの機会を増やすことが大事。実際に、トップである会長自らふらっと現場に行って、話を聞くといったことが今でもありますし、そういう現場の実際を分かろうとする気持ちが一番大事なのかもしれませんね。

    ────以前は現場への関わりが薄かったというのは、どうしてだったのでしょうか。

    お客さま第一主義が、そこまで深く浸透していなかったのかもしれませんね。今、グループのステートメントで、本当にお客さまのことを考えて、『Empathy』を宣言しているわけですが、当然のことながらお客さまの声と実際の現場の情報が大切だということになってきていて、そこから業務を改善し、次の仕事のあり方を考えていかなければという意識が強くなってきているんだと思います。

    ────多様な社員の方々の間の壁を取り除くことにハードルの高さを感じて、手を出せずにいる企業も多くありますが、御社は自然なこととして取り組まれている印象があります。

    リクルートの風土のお陰だと、これは本当にそう思いますね。社員の年齢構成や働く環境などはリクルートとはまったく違いますが、リクルートの手法は応用できるといいますか、上司は「さん付け」で呼び、男女の区別もなく、若い人の意見も積極的に聞こうとする、また、自ら行動する、自ら提案するといったことを大事にする、そういった風土や考え方は受け継がれているのかなと思います。

    個人個人がキャリアの設計図を描き、
    会社での役割がそれにリンクすることが、理想の姿。

    その一方で、これまでのやり方を見直したいと感じている部分もありまして、OJTや研修、目標管理といったものに、限界があるような気がしているんです。本当の意味での自分自身のキャリア形成を、考えたり悩んだりしながら、必要なものを自分で吸収していくようなことが仕組みとしてうまくできないかなと。なかなかできないんですけどね(笑)。

    ────キャリアとはどのようなことを指すのですか。

    昔の考え方でいけば、新卒で入社して、リーダーになって、管理職になって、役員になって......と役職が付くことが成功の図式になっていたと思うんですね。でもそうではなく、もっといろんな働き方やキャリアの持ち方、能力の活かし方があってもいいんじゃないかなと。世の中にあるコース別人事といったものも、何か枠にはめている感じがしますでしょう。そうではなく、個人個人のキャリアの設計図があって、ひとりひとりが色々なプロになっていく、それに向かっていけるような仕組みがあるといいと思うんですね。

    ────人生全体を考えるということにもなるのでしょうか。

    そうですね。人生自体、あるいはその個人の価値観、生活と会社での仕事や役割とをうまくマッチングさせたいという理想はあるんですが、なかなか難しくて悩んでいるところです。現実問題として、40歳をすぎて課長職にはなったけれどマネジメントする立場にはないという社員もできてきていますから、その人たちがどう能力を発揮するのか、成長していくのか、仕事で何を感じるのかということを考えなくてはいけない。いろんな年齢や経歴の人がいろんな風に働けることが当社の長所でもあるので、うまく何かできないかなと思っているところです。

    女性の働き方もきっと同じで、「女性の管理職の登用目標を作ろう」、「社内に託児所を作ろう」など、女性を保護するような施策がありますが、個人的にはそういうことではないと思うんです。もっと一人一人のキャリアや事情を意識して、その人の個性を本当に活かすような仕組みが必要だという気がするんですね。

    ────OJTや研修に限界を感じたというのは、何か出来事があったのでしょうか。

    例えば、課長になったら伸びなくなる人がいたり、同じように部長になったら伸びなくなる人がいたり。個人の強みが皆に身についているかと考えると、そうでもないという感じることもあります。何らかの特長や突出するものを持っているという人が少なくて、何かこう標準的に成長している人が多いといいますか。

    ────会社の中でポジションを得て、ミッションを与えられる中で、「自分はどうなりたいのか」という原点が失われてきているともいえるのでしょうか。

    そういう気はしますね。その原点と仕事とがちゃんとリンクしていれば、自分のことを自分で認識しながら、成長していけると思うのです。研修でも「自分の良い所も悪い所も認めましょう」というプログラムがあったりしますが、現実の中で一つ一つ自分なりに感じて確かめていくようなキャリアの作り方ができるといいなと思うんです。

    ────100人いたら、100のキャリアがあるのかもしれないですね。

    当社の中でのその人なりの活躍の仕方をオーダーメイドのようにつくっていけるのかもしれないと思いますね。

    ただ、何でもそうなんですが、何か問題があると「どういう制度や仕組みを作ろうか」といったことを、すぐに考えますよね。「女性は」、「中高年は」と、対象もカテゴリーでくくってしまう。そういったこと自体が何か違うのではないかという気がします。私が女性なものですから、女性の戦力化について意見を求められることも多いのですが、そんなことを意識すること自体がいけないんじゃないかと思うんです。

    ────身構えて受け止めると、妙に高い壁になることもありますね。

    そうです。「女性の扱い方」とか、「女性のマネジメントとは」といっても、皆一緒なんだと思うんですね。男性でも結婚したら家庭第一主義になる人もいるわけで、ストレスの感じ方についても「女性は弱い」、「感情的だ」といわれますが、男性にもそういう人はいる。カテゴリーで物事を考えようとすること自体を排除していきたいなと、私自身は思いますね。

    ────社員の方々を一人一人と捉えて関わるというのは、人事にも相当に負荷がかかることだと思います。社員数何名ぐらいまでなら可能だと思われますか。

    どうでしょう、500名くらいまではできるんじゃないでしょうか。といっても関わるのは人事だけではなくて、先ほどお話した若手社員と先輩との交流についても、いろいろな人がいろいろなことを網目のように知っていけば、少しはそういう仕組みもできるのではないかという思惑もあります。また、『自己申告制度』と呼んでいた制度も、『キャリアデザイン』と名前を変えて運用を始めたところです。なかなか、これだけでは難しい面もあるのですが。

    ────『キャリア』という言葉には、昇進昇格という上昇イメージが根強いようにも思います。

    そう。そういう風にしか考えられなくて、昇進しないと「外れちゃった」と本人だけでなく周りも捉えがちですよね。その概念を変えていきたいんです。そうすると、40代、50代、60代にスムーズにスライドしていけると思うんですね。

    ────何年計画で考えておられるのですか。

    そうですね......、5年、10年かかるのかもしれませんね。

    ────急に変えていいものでもない、ということもあるのでしょうか。

    時間をかけないといけないし、実際の社員でケースとして積み重なってくることで見えてくるのかなと思っています。いろんなパターンがあるじゃないですか。今の40代前半のクラスが50代を目前にするようになって、どう過ごしていくかを考えるという頃にできあがってくるといいかなと思っています。

    社員の多様性を活かす裏には、
    多様性を支える労務管理がある。

    そういったことを考える一方で、当社の特徴として、労務管理や健康管理、労災対策や雇用契約の管理といった複雑な難しさを抱えているということがあります。さまざまな年齢の職種契約形態で働いていますから、ベースとしての労務管理はけっこう大変なんです。

    業務中の事故やケガも実際にありますし、受託先との契約が終了すれば、そこで働く何人もの社員の処遇をどうするかという問題もおこります。人事としては、相当勉強になりますね。

    ────ほかの業種にはないリスク管理があるんですね。

    そうなんです。処遇や契約にも、相当に気を遣いますね。例えば一年ごとに契約更新する社員については、半年前から手続きの準備を始めます。まずは部門長から契約を更新するかどうかについて申請をあげてもらい、人事で調整したうえで決裁をします。契約は更新しないとなると、どのようにしてご本人と面談をするかということも個別で打ち合わせ、問題にならないような形での解決を考えます。契約を続けるにしても、一年ごとに更新しているという実態をちゃんと作る。

    住み込みという形態もあって、十数時間の拘束がある中の、どの時間帯にどんな仕事をするかということを申請して、初めて認められる働き方なんですが、それが実態と合っているのかどうか、健康管理も健康診断結果のフォローをしっかり実施したり、現場の労務災害についても、危険が伴う場合は一つ一つチェックして対策を考えたり。そんなこともやっていますね。

    ────すべてにおいて手間暇がかかりますね。

    かかりますが、人を中心にした経営をしている当社では、ここをないがしろにするとすべてが崩れます。風土づくりやキャリアデザインの話は、こういう地道なことの積み重ねも含めて、トータルで実現していかなくてはいけないのだと思います。

    ────ありがとうございました。

セコム株式会社
顧問 加藤 善治郎さん

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    『収穫逓増型』の事業を生み出した経営の秘けつとは(後編)

    事業規模が拡大するにつれて投資効率がよくなり、利益率も高まる──IT時代の象徴の一つとして『収穫逓増型』といわれるビジネスモデルが注目されています。『収穫逓増型』のビジネスを生み出し、高い競争力を持って同業他社を凌駕する秘けつは何か。セコム株式会社の顧問であり、『セコム 創る・育てる・また創る』(東洋経済新報社刊)の著者でもある加藤善治郎さんに伺いました。

  • セコム株式会社http://www.secom.co.jp/

    1962年に日本で初めてのセキュリティ会社として創業。66年にはこれも日本で初めて、オンラインによる安全システムを開発。以来、セキュリティ事業を中核に医療、保険、地理情報サービスなど独自の技術開発力やネットワークを武器に多方面に事業を展開。"あらゆる不安のない社会"の実現に向けて「社会システム産業」の構築を目指す。

    ZENJIRO KATO

    1933年生まれ。岩手日報、アド電通を経て、70年に日本警備保障(現セコム)に入社。73年には広報室長に就任し、一貫して広報業務の責任者を務める。76年にセキュリティワールド社長就任、90年にセコムの宣伝・広報担当顧問に就任。NPO法人日本リスクマネジャー&コンサルタント協会の理事長も務める。著書に『セコム 創る・育てる・また創る』(東洋経済新報社刊)。

  • 『協働』と『現状打破』の精神で、新サービスを開発。

    ────次々と新しいサービスを生み出す御社の社風というのは、どのようなものなのでしょうか。

    創業の当時から、誰もしていない事業を始めたわけですからね。自分たちで考えて、自分たちで新しい方法を作らなければいけない。これが基本的な宿命です。そのときに大切なのは、『独自性のあるサービスは何か。それを実現するにはどうすればいいか』ということ。「これはダメだ」とか「規制があるからできない」とか、そんなことばかりいっていると、誰も新しいことに挑戦しなくなりますね。

    そうしますとね、発案者を中心としたグループができる。これは、新しいサービスを開発する場合に恒常的に取る方法です。事業部を超えて、セキュリティ事業、医療事業、保険事業、情報通信事業、地理情報サービス、教育事業などのスタッフが横断的に協働することもよくあります。例えば、私が提案した『加藤案』があるとしますね。私だけでは広報の力しかないから、IT、法務、営業などの各方面の専門家も入れて、5人くらいのグループで『加藤案』について議論をする。そうすると、規制や条例に触れるといった問題があると、法務の専門家がすぐパーンと指摘してくるわけです。けれども、抵触するということが分かればね、極端な話、その規制を変えればいいわけです。変えるためには、サービスをよくすればいいわけですね。

    医療サービスも、医療の専門家だけで開発するわけではありません。セコムでは『トータルパッケージ方式』と呼んでいますが、医療の専門家の研究グループの中に、警備の専門家も入ります。機器の製造やメンテナンスの専門家も入るし、営業の専門家も入る。新聞などでの報道に、よく、『最新鋭のハイテク機器を利用しているのに事故が発生し、巨額の損失を受けた』、といったことがありますね。ハイテク機器の使い方に間違いがあったとか、システムの一部が整合性に欠けていたなど、原因はさまざまでしょうが、『トータルパッケージ方式』は、このような欠落を排除し、信頼性を維持することを狙っているんですね。しかも、チームで協働すれば、一人では考えつかない新しいアイデアが生まれ、3倍も4倍も速くできます。

    『協働する組織風土』と、障害があってもあきらめない『現状打破の精神』。これが、新しいことを始めるためには大切なように思いますね。

    今までにない新しいサービスを
    開発するための答えは現場にある。

    そうやっていくと、面白いことも起こります。人的サービスによる警備から、情報通信と人的サービスを組み合わせた警備が中心となったのは昭和47年からですが、それ以前、昭和41年や42年ごろから、大手外資系のシステム会社や通信キャリア、大手電機メーカーなどから技術系の専門家が、人数は少ないですが、入社し始めたんです。そして、どういうセキュリティシステムを開発するか、どういう機器を作るかということを議論し始めたわけです。

    そして「こういう新しいサービスを始めたい」と、幹部の会議に提案をした。そうしたら警備をしている、いってみれば情報通信の素人がそれを見て一言、「この機械は機能が多すぎて、コストが高い。しかも、泥棒はこれじゃつかまりませんよ」と。「もう少し単純なものを、安く作ったほうがいい」というわけです。そうしたら、我こそは大手外資系から来たという連中が、「ぎゃふん」となってね(笑)。

    このことで分かったのは、技術系の専門家だけじゃダメだということです。ですから、先ほどお話した「トータルパッケージ」には、必ず現場の人間が入るんですね。情報技術の専門家だけでは、「こういう機能もある」「こういう電子レーダーが云々」と、要するにサービス過剰。そこに現場の人間が入って、毎日の警備で困っていることを「何とかなりませんかね」と持ちかけたら、やはり技術屋さんは頭の中が違います。「それ、できるよ。作ってみよう」と、すぐに開発が始めるわけです。

    研究所の活動も、研究所の中だけに留まりません。研究所の人間と現場の人間との混成チームで、10日に一回など定期的に集まるんです。そして、現場が困っている問題を一緒に議論する。私が現役の当時は、夕方の5時から夜の8時ごろまで、3時間くらいだったでしょうか。夕飯は会社が持ってね。それをまとめて、担当役員に「こういう結果が出ましたのでやってみたい」と持っていく。そしたら「いいじゃないか、やってみよう」と。だって、担当役員は分からないんだもの(笑)。何ていったって、新しいことでしょう。役員だから何でも知っているかっていうと、そうではなくて、知っているのは実際に前線にいる人間です。

    ですから、技術の専門家と警備の専門家とが一緒になって、『トータルパッケージ』でもって新しいサービスを作ってきた。セコムは、そういう組織なんです。

    ────現場重視の風土でいらっしゃるのですね。

    現場重視といいますか、現場の人間を大事にしていますね。お客さまのところに行ってサービスを提供させていただくのは現場ですから。現場をいい加減に扱っては、お客さまから見放されます。ですから、新しいサービスや新しい仕組みを作るためには、どういう進め方をするかということが大事なんですね。

    徹底した『加点主義』で、社員の自主性と意欲を引き出す。

    ────御社が求める人材像とは、どのようなものなのでしょうか。

    基本的には、さきほどいったような『新しい考え方を進める』とか『諦めずにがんばる』とかね、そういう前向きさは必要でしょうね。

    ────そういった『新しい何かをやりたい』というような人を、重点的に採用されているのでしょうか。

    いやいや。もちろん、採用担当者は社会人としての基準を見て採用していますが、それ以上のことは面接だけでは分かりません。学校の成績のいい人や優秀な会社から来た人を評価するかというと、それもない。なぜかといいますと、創業者自身がね、優秀な学校で優秀な成績で......というタイプではないんですね。それでも、会社をここまで作りあげてきたわけです。

    上場して企業規模が大きくなると、セコムに応募する人もかなり増えました。有名な大学の学生も来たし、有名な会社に勤めていたマネジメントクラスの人なんかも来るようになった。そんな中で一時期、有名大学の成績優秀な学生から順番に採用していた時代があったそうです。そうしたら創業者が「なぜ、そんなことをするか」と。「そういう優秀な人材が来てくれたのは喜ばしいことではあるけれど、創業当時から一緒に会社を大きくしてきた社員たちが、学校の成績優秀な人ばかりだったかというと、そうではなかった」と。こういうこともいっていましたね。「面接で目が輝いている人間、これはOK」と。「中身は分からないけど、目が輝いている人間は頑張るぞ」と。これは一理あるんじゃないでしょうか。

    ────真義なのかもしれませんね。

    そういう人間は、その気になれば3倍の能力を発揮します。創業当時は警備員しかいないわけですから、「あなたはどういう経歴?」と聞いたら、「私はアメリカ軍の警備員をしていまして、警備会社ができたので来ました」とか、「トラックの運転手をしていましたが、こちらのほうが給与がよいので入社しました」とかね。そんな人たちが、いつの間にか幹部社員になっているわけでしょう。

    ですから当時は、ごく普通の人の中から、目の輝きがあって意欲的だと思う人を採用していたんですね。そういう人は、必ず転機を迎えて、ガラッと人が変わったように頑張り始めます。自分の考え方が新しいサービスとしてシステム化されるわけですから、やっていて一番楽しいのは当事者なんですよ。で、楽しいから夢中になってやる。もう、「やめろ」っていったってきかない(笑)。そうするとね、「あれ、この人はこんなことができるのか」と思われるようなアイデアを提案したり、新しい仕組みの中心人物になったりね。

    ────そういう環境を実現する、文化や風土が根付いておられるのですね。

    そうですね。経営理念や経営指針は創業者が作りましたが、「それに基づいて自由にやれ」という風土があります。いや、人間がガラッと変わるときというのは、見えるんですね。セコムの社員として中心的に活躍する人間に変わったなということがね。

    ────それはどんなときなのですか。

    自分で提案したことを、上から「やってみろ」といわれて、そうすると散々苦労しますよね。誰もやってない仕事をやるわけですから。ですから、それを一つ成し遂げますと、「あ、そうか」と。「自分にはこういうパワーがあるんだ」ということを自覚するんです。そうすると、またやってみたいと思うようになる。実現するまでは大変ですが、本人は一生懸命に集中力を持ってやっていますから、「逃げたい」とか「ごまかそう」とか、そういう感覚は全くないですね。それに、新サービスの開発はダメでもともと。成功すれば評価されますが、失敗しても給料下がるとかボーナスが下がるといった減点はないんです。

    ────加点主義なんですね。

    徹底した加点主義です。よく「会社で失敗すると減点されて評価が下がるから、余計なことはしないほうがいい」という姿勢の人が世の中にはいるようですが、セコムではそういったことはない。誰もやっていない初めてのことは、やってみなければわかりませんからね。「あんな失敗をしたのに、給料も下がらないし、地位も下がらない」という例は、いくらでもあります。一方で入社して間がなくても。いい仕事をすればトントンと昇進したりね。

    グループ総数4万人の企業になっても、
    『社会システム産業』を目指すハングリー精神は変わらない。

    ────これからの御社のありようについては、どのように見ていらっしゃいますか。

    社員数が国内外のグループ全体で4万人ぐらいになりましたからね。この4万人が、基本的なセコムの考え方を守って、『トータルパッケージ』で協働して、新しいものを作り出していこうと。そこは、変わりませんね。

    ────企業規模が拡大するにつれて大企業病に陥る企業も多くありますが、御社が自由な風土を保っておられる秘けつはどこにあるのでしょうか。

    『大企業病』が何を指すのかはよく分りませんが、セコムはゼロから始まっていますからね。2人きりで昭和37年に始めて、1000名になったのが昭和43年。当時の売り上げが32億円でした。それが昭和49年に2500名、150億円になった。売り上げで見ると、6年で5倍になりました。それが今、4万人、6020億円でしょう。

    考えてみますと仕事の領域は広がりましたが、目指していることは今も同じなんですね。『社会システム産業』を成立させるために、新しいサービスを生み出していく。しかもそれを、全て自分たちで作っていく。ですから、企業規模が大きくなったとはいっても、満足している状況ではないんです。『社会システム産業』が成り立つまで、やっている本人たちは不満足の連続でしょうね。

    ────いい意味で『不満足』なんですね。

    そう。なり足りない。ですから、私なども広報の責任者をしていた時代は、夜も昼もありませんでしたね。広報物の原稿を社長に出しても、「お前がいいと思えば、それでいいんだ」と、指摘もない。信頼されて任されるわけですから、それなりのレベルにしなくてはいけないという責任があるわけですね。

    ────その風土を、規模の如何に関わらず今も保っておられるのは、大変なことですね。

    そういう意味では、非常に変わった会社なのかもしれませんね(笑)。

    ────ありがとうございました。

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