2006年10月アーカイブ ..

リミテッド株式会社
代表取締役 伊藤 雄一郎さん

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    会社を活性化する社内コミュニケーションのあり方

    社長の思いが社員に伝わらない。管理職のマネジメント力に不満を感じる。企業の成長と供に起こるこれらの問題は、社内のコミュニケーション不全から起こります。社員のモチベーションを高め、経営の意図を組織の隅々にまで行き渡らせるにはどうすればよいか。PR会社リミテッドの伊藤雄一郎代表取締役に伺いました。

  • リミテッド株式会社http://www.limited1.jp/

    1995年設立の、日経新聞グループに強いPR支援会社。「顔が見える会社」、「社会と対話する企業」に向けた課題の発見と解決を強みとし、PRや広告宣伝、社内コミュニケーション戦略の構築、実行を手がける。

    YUICHIRO ITO

    1962年生まれ。86年、日本経済新聞社に入社。記者として半導体、電機、工作機械、貴金属、非鉄、紙などの主要産業の最前線を取材。95年にリミテッド株式会社を設立。菅直人・厚生大臣(当時。現民主党代表代行)のブレーンなども務めた。経済ジャーナリストとしても、テレビ・出版・講演などで活躍し、「年金術」(文春新書)、「金融生き残り戦争」(ダイヤモンド社)、「生保のカラクリ」(講談社)など、これまでに著書25冊を上梓。

  • 情報発信の上手な経営者は、
    自社の特徴を理解している。

    ────PRや広告宣伝活動に成功する企業には、社内コミュニケーションのあり方としても学ぶことが多いのではないかと思います。PRが上手い会社には、共通項があるのでしょうか。

    ありますね。例えば経営者のことでいえば、自社や自分の特徴をよく理解しているというのが第一。

    ────特徴とは、例えばどんなことですか。

    良いところも悪いところも、両方を知っているということです。例えば、わが社のこの技術力はどこにも負けない、中国では先駆者だ、当社の製品が一番安い、など。何でもいいんです。業種でも、エリアでも、値段でもいい。社長自身の特徴でいえば、財務は弱いが決断力はある、職人としての技術力はナンバーワンだがマネジメントは苦手、といったことですね。そういうことを、ちゃんと分かっている。これが、共通項の一番だと思います。

    分かっているというのは、同業他社に比べた自社のポジションを理解しているということでもあります。マーケティングでいうスワット(SWOT)分析と考え方は同じですが、縦軸と横軸のマトリックスで自社の特徴が把握できているということです。

    ※スワット分析:SWOT分析。Strength(強み)、Weakness(弱み)、Opportunity(機会)、Threat(脅威)の4つの観点から、自社の内外環境を分析する手法。

    ────マトリックスの軸に何を選ぶかということにも、コツはあるのでしょうか。

    まずは、いろいろな観点でやってみることですね。商品開発力はどうか、営業力は、人材の層は、など。ただし、分かりやすいことが第一ですから、細かく分析する必要はありません。業界内のポジションを知るという観点で、大雑把な観点を10項目か20項目ざっと挙げてやってみる。そうすると、「ああ、こんなもんだったんだ」という気づきがあるはずです。

    そうすると、会社のことが分かりやすくなります。社員にとっても、非常に分かりやすくなる。「会社の強みはこれだから、ここに自信を持ってやっていけばいいんだ」とか、「会社はこっちの方へ向かっているんだ」とか。それらは、会社の個性になりますから、他社との差別化にもなる。

    そうなると、今度は目標が立てやすい。経営理念も事業目標もそうですが、「当社はこれを目指すんだ」ということが、明確に打ち出せるわけです。例えば、「売り上げ100億円の達成」でもいいし、「上場を目指す」ということでもいい。「地域一番店を目指す」でも、「北海道でナンバーワン」ということでもいい。目標が立てやすいんですね。なおかつ、数値化や視覚化もしやすい。すると、社員にも分かりやすいので、みんなで一つのものを目指せるということにつながっていくわけです。

    ────中には、自社の強みを分かっているつもりでも、実は理解できていないという経営者もいらっしゃるのではないでしょうか。

    そうですね。ですから、スワット分析のように客観的な分析が必要です。自分たちの思い込みだけではダメなんですね。「もの造りを手がけているから技術に強い」といったことは経験を述べているだけで、本当にそうかどうかは分からない。逆に、私どもにPRのご相談があったとき、「御社はここが強いのに、なぜいわないんですか」ということもよくあります。「毎日やっていると、当たり前になっちゃって」という話なんですね。

    ですから、ときどきは外から刺激を受けることが必要だと思います。PR会社は、そんなことを年中手がけていますから。先日も、ある顧客企業の役員から「目からウロコが落ちました」といわれました(笑)。第三者から見ればすぐ分かる話なのに、当事者たちはまったく分かっていないということは、頻繁にあります。

    ────一方で、「当社には強みがない」とおっしゃる経営者の方もいらっしゃいます。強みは、どの会社にもあるものなのでしょうか。

    日本人は、謙虚だなと思います(笑)。けれども、それではダメでしょうね。良いところがなければ、その会社は存在していないはずです。買ってくれる顧客がいるから存在しているわけで、強みが何もなければ買ってもらえないということだから倒産しますよね。つまり、強みがないということはありえない。気がついてないか、きちんと見てないかのどちらかです。

    ────目標を立てるには、強みを伸ばすという発想が必要になるのでしょうか。

    基本的には、そうですね。もちろん、弱みを補うという観点もあります。自社の特徴を理解するということは、弱みを補う手段を考えるきっかけにもなるんです。例えば、人材が足りないという特徴が明らかになったのであれば、そういう人を必要としているというメッセージを社員に送ることができます。そうすると、「それなら、私がやりたい」など手を挙げる社員がいるかもしれない。

    先ほど例に挙げた、技術屋の社長は財務が弱いというのは典型的なパターンですが(笑)、会社には財務担当者は必要なわけです。それを社長ができないのであれば、誰かが補わなくては仕方がない。そこで「私がやります」といったら、社長の参謀になれる。だから、社員が伸びやすいですよね。社員が手を挙げやすい環境になる、とは思いますね。

    経営者が情報発信に熱心であること。
    基本は、『5W2H + YTT』。

    PRに成功する企業の二つ目の共通項は、トップが情報発信に熱心だということです。自分が広告塔だということを、社長が自覚している。広告塔ができない人は、経営者としては成立しにくい時代になっていると感じます。これだけメディアが発達し、インターネットで自由に情報発信ができるようになっていますから、黙っていると埋没してしまいます。

    ────情報発信に熱心な経営者の方々は、具体的にはどんな活動をされるのですか。

    自社の特徴や目標を、あらゆる機会を捉えて常にトップが発信しているということです。社外に向けても社内に向けても、紙・WEB・映像・直接などの手段で、「わが社はこれで生きていくんだ」といった話を常にしている。発信していると、社員はそれに応えようとします。「そちらへ向かっていけばいいんだな」ということで、まとまりますよね。団結が強くなって、会社のパワーも強まる。それが黙っていると、「社長は何を考えているんだろう」、「これでいいのだろうか」と、社員は不安になるわけです。そうすると立ち止まってしまって、場合によってはベクトルもバラバラになる。それでは組織のパワーは発揮できません。

    ────情報発信で心がけるポイントは何でしょうか。

    大目標、中目標、小目標をそれぞれ設定することです。数値化、図式化すればなおよし。大目標はビジョンでもいいんですが、例えば、株式上場といった長期的な目標。そのために来期は売り上げをいくら達成しなくてはいけない、ひいては今月こういうお客様を開拓するぞ、というところに落とし込むんですよ。

    ────そうすると、目標が具体的になりますね。

    そういうことです。そこまで落とし込まないと、ダメなんですね。なおかつ、それを数値化・視覚化・図式化して、目に見えるようにすることです。こっちに行くんだよということを分かりやすく指し示すことが、リーダーシップを発揮するということなんですね。

    ────分かりやすく指し示すということでは、御社のPR支援でも『顔が見える会社』、『社会と対話する企業』というテーマを掲げていらっしゃいます。

    何をやっているかが分かる、社長が何を考えているかが分かる会社といってもいいと思います。そのためには、自社の特徴をよく理解して目標を明確にし、常に情報を発信しないといけないということにつながっていくわけですね。

    商店に例えると分かりやすいのですが、八百屋さんだったら、『地域1キロ圏内の台所に貢献している』などといえますね。非常に分かりやすい。靴屋さんなら『1キロ圏内の住人の足元に貢献している』と。それが企業になると、分かり難くなってしまう。事業の多角化、社会の複雑化によって、1つの会社でも何をしているのか、どんどん分かりにくくなっているから、自ら情報発信しないと理解してもらえませんよということです。

    ────『社会の発展に貢献して云々』などと明文化された立派な理念があっても、結局何のことなのかが見えない会社もありますね。

    そう。ですから、どこの分野のどういう人たちに、何をすることで貢献するのかと、そこまで具体的にする必要があるんです。

    ────『5W1H』に似ていますね。

    『5W1H』です。さらにつけ加えるなら、『5W2H+YTT』。『2H』とは、『How』と『How much』。『YTT』は、『昨日、今日、明日』です。

    ────時間軸が入るんですね。

    そうです。この考え方は、発信する情報を明確にするためにも必要ですし、誰に情報発信するのかというターゲティングにも有効。『いつ、どこで、誰に、何を、いくらで、なぜやるのか、それは過去どんなものだったのが、今こうすることで、将来こうなるだろう』。これを明確にする必要があるんです。

    社員は社長の考えを分からないもの。
    これが、コミュニケーションの大前提。

    ────経営者の方の中には、社員が社長の発想のスピードについて来られず、「社員は分かってくれない」とおっしゃる方もいます。一方で、社員にすれば社長の発想の転換が速すぎて、発信されることは朝令暮改にしか見えない。そこには、コミュニケーションのギャップがあるように感じます。

    そうでしょうね。私も昔はそういうタイプでしたが(笑)、社員も自分と同じ視点を持っていると思ってしまう。経営者は熱い思いがありますから、そう思いたくなるものなんです(笑)。だから、「どうして社員は分かってくれないの」という話になるんですね。しかし、経営者と社員の間には温度差がある。

    つまり、『社員は社長の考えを分からないものだ』ということを前提に考える必要がある。これは、社内コミュニケーションを考えるうえでのキーワードですね。

    ────少し、寂しいような気もしますが。

    いや、それが現実ですよ。他人のことって、分からないものなんですから。日本人はとかく、「何となく、分かるよね」という感覚で物事を進めてしまいがちですが、それが間違いのもと。生まれも育ちも考え方も違うのに、分かるわけがない。社長と社員との関係も同じです。コミュニケーションは、『他人同士は分かり合えない』ということが前提なんです。

    では、分かり合えるためにはどうすればいいか。そのための努力が必要なんです。有名なのは、キヤノン代表取締役会長の御手洗氏。あの方はトップダウン型だと思われている方も多いようですが、実はものすごく説得型のコミュニケーションをされる方。例えば、毎朝8時から行う役員会は、議題がなくても開催するそうです。プロ野球の話や株の話など、雑談でもいいと。それでも開催するのはなぜかというと、誰が何を考えているかを常に把握しておきたからだと。食事も社員食堂で取ることがあるとか。若い社員が食べている横に来て、気さくに話しかける。自ら社員の中に飛び込んでいるわけです。

    工場の生産方式を、ライン式からセル式に変えたときの逸話もありますね。当初、工場の社員たちは改革には消極的だったそうです。新しいことをやらなくてはいけないわけですからね。そこで御手洗氏がどうされたかというと、一番反対している工場長を最初に説得した。普通は、自分に賛成してくれる人をキーマンだと思いがちですが、実はそうではない。どのみち全体に導入しなくてはいけないわけだから、最初にやったのは一番反対している人を説得することだったんですね。そして、その工場長の工場でライン式とセル式の両方をやらせてみたところ、やはりセル式のほうがよかった。そうしたら、その工場長が一転して最大の賛成派になったんです。そして、ほかの工場を説得して回るようになった。キーマンは、必ずしも自分にペコペコしている人とは限らない。最大の反対派が、場合によっては180度転換することもあるということなんですね。

    コミュニケーションの質は量に比例する。

    ────コミュニケーションの質は、量に比例するということでしょうか。

    比例はします。手間ひまをかけるようにしないと、社内のコミュニケーションに空白ができてしまう。シロアリが柱を食べてしまうように知らないうちにポッカリと空いていて、何か一撃をくらうと倒れてしまうといったことがあると思います。例えば、メールは効率がいいように見えますが、相手は読んでいないと思ったほうがいい。仮に読んでいたところで、受け取り方はみんな違います。社員集会で全員を相手にいったとしても、聞いている人と聞いてない人がいる(笑)。

    ────聞いていない人はいるかもしれませんね(笑)。

    そう。御手洗会長のように工場ごとに個別に話をするなど、非常にマメであることが大切なんです。『顔が見える会社』というのは、社員にとっても顔が見える位置でトップが話してくれる会社ということ。遠くのほうで、よく見えないけど何かしゃべってるというのではだめ。トップから社員に近づいていって、本当に見える距離で話して初めて伝わるということです。

    先ほど、ターゲティングの話もしましたが、顔が見える距離で伝えるには相手を絞る必要があります。伝えることも絞らなくてはいけない。逆に言うと、八方美人は失敗しますよということですね。そして、欲張ってもいけない。十のことを言って一つ伝わればよし。そんなものなんです。全員にすべてを分かってもらおうとはしないことですね。

    そして、同じコンセプトや情報を繰り返し発信すること。これは政治家の選挙活動でよくいわれることなんですが、その候補者に有権者が5回触れて、初めて投票してもらえる。5回というのは、ポスターやテレビの政見放送、宣伝カーの演説、握手などですね。だから、うるさいと言われるくらいに選挙区を回るんですよ。

    広告業界にも、「AIDMA(アイドマ)の法則」というものがありましてね。消費者が商品やサービスに興味を持ってから購入するまでには、5つの段階があるという理論です。5つとはAttention(注意)、Interest(関心)、 Desire(欲求)、 Memory(記憶)、 Action(行動)。ものを買うにも5つのステップが必要。社員に分かってもらうには、1回や2回のコミュニケーションでは無理だということです。

    ────そうした努力の結果、社長の考えを理解して、社長の分身となる方が社内に生まれてくると、経営も楽になりそうですね。

    そう。社長の意思が組織に伝わりやすくなりますね。ただし、それまでが大変。選挙活動ではないですが、死に物狂いでやらないとダメでしょうね。

    社内コミュニケーションがうまく取れない社長の共通項。

    ────社内コミュニケーションを成功させるポイントについてお伺いしてきましたが、うまくいかないケースにも共通項はあるのでしょうか。

    ありますね。原因は社長にあります。1.独りよがり。2.表現力がない。3.視野が狭い。うまくいかないのはたいてい、この3つが原因です。

    ────視野が狭いというのは、どんな状態なんですか。

    自分の視点でしか見ていないということですね。例えば、社長が年配の男性だとすると、若い女性社員の視点を分かろうとしないとかね。同じように理解しろとはいいませんが、せめて共感するなどの姿勢は必要です。

    ────表現力は、どうすれば磨けるのでしょうか。

    これは、練習でしょう。量をこなせば、質は自然に向上します。表現のプロになるわけではありませんから、自分らしさが伝わればいいんです。話す内容も難しいことである必要はなくて、今日散歩していたらどうだったとか、そういう話でもまったく構わない。そうすると、社員も社長に親近感が持てます。ポイントは、たくさん情報発信することです。ただし、誤解してはいけないのは、言葉がたくさん必要かというとそういうことではない。営業マンによくある話ですが、口下手な人の方が、売り上げがよかったりしますね。あれはなぜかというと、少ない言葉の中に説得力のある言葉が入っているからです。意味のない事を並べたてるだけの多弁な人は、何が本当の事か分からなくなって信用を失ってしまいます。

    ────確かに、話に形容詞が多い方などはいらっしゃいますね。

    そう。ほとんどが引用だとか、あなた自身の言葉はどこにあるのか、と疑問に思うタイプ。無口な人は、一言が重いですね。もちろん、これらはその人の個性で構わないんですが、上手に話そうとか、多弁にならなくてはとか、そういったことは必ずしも必要ではないということです。

    ────自身の表現力の問題を指摘してくれる第三者が、身近に必要かもしれないですね。

    そう。ですから、例えば米国の大統領にはスピーチライターがついていますね。報道官もいる。大統領になるほどの人でも、あれだけの広報のプロが支えている。経営者にも広報のプロを使うことをお勧めしたいですね。ぜひ、われわれPR会社を使ってください(笑)。社内報の制作などの具体的な広報業務も手がけますが、アドバイスだけでもいいんです。最初にもお話ししたように、自社の特徴や自身のコミュニケーションスタイルの問題点というのは、案外自分では分からないもの。外部の客観的な目は必要なんですね。

    裸になって向き合う。心から褒める。
    人を動かすのは、人の心である。

    ────社内広報の手法にも、イントラネットを利用する、Eメールを配信するなどさまざまな方法がありますが、伝達方法の選び方にもポイントはあるのでしょうか。

    何を伝えるのかというテーマや、その会社の体質によりますね。IT企業はインターネット中心でしょうし、メーカーの工場ならインターネットよりも一升瓶持って車座のほうがいいでしょう、とかね。逆に、IT企業の若い社員あたりは、そういうコミュニケーションに飢えているところもありますしね。

    ────直接のコミュニケーションに飢えているということですか。

    そう。だから、かえって新鮮なんですよ。そこから思うのは、自分の裸を見せないと相手は信用してくれないということ。極端な話でいえば、社員旅行は今は減りましたが、裸で風呂に一緒に入らないと。本当に裸の付き合いをしないと、「よし、お前のためにやってやろう」とはいってくれません。社員にそこまで求めるのかという話もあるでしょうが(笑)、お金や地位だけではない、ハートの部分をつかんでいる必要は絶対にある。給料だけのつながりは、給料が払えなくなったら切れます。尊敬であってもいいし、親しみやすさでも何でもいい。手段は人それぞれでいいんですが、経営者というものは社員をひきつけられるような魅力を備えておく必要があると思います。

    ────心が大切なんですね。

    そう。それから、褒めるということも大切です。旧海軍の名将・山本五十六の格言に、「やってみせて 言って聞かせて やらせて見て ほめてやらねば 人は動かず」というものがありますね。「これをやれ」といっても、人は動かない。いったうえで、「こうやってごらん」とやらせてみて、うまくできたら褒めてあげる。「おお、よくやったな」と。そうすると、やっと自分で動き始める。こうした段階が必要なんです。

    ────忍耐がいりますね。

    ものすごくいりますよ。「それじゃ、ダメだよ」といったら、そこでもうお終いになってしまいます。褒めるのは、成果でなくてもいいんです。頑張った姿勢やチャレンジしようとしたことを褒めてあげるとかね。褒められて嫌がる人はいませんから。

    ────自社の目標や方向性を分かりやすく社員に伝える一方で、やらせて見せて、褒めるということが必要なんですね。

    そうすると、内面に前向きな姿勢が出ます。そうなれば、社員というのは放っておいても走っていきますから。それが、モチベーションが高まるということでしょう。

    ────中には、経営理念やミッションステートメントを印刷して社員に配り、強制的に暗唱させるという方法で、周知を徹底する会社もあります。

    例えば、アルバイト社員を即席で育てないといけないなど、場合によっては上から強制的に落とすやり方も効果的だと思います。しかし、それはモチベーションを高める情報発信ではないですね。モチベーションというのは、人の内面から沸きあがってくるもの。外から圧力をかけてもダメなんですよ。内面にあるものに火をつけてあげるコミュニケーション。これが大切なんです。

    ────ありがとうございました。

株式会社荏原電産
代表取締役専務 堀 保之さん

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    大手グループ企業が目指す、「わくわく企業」に向けた改革

    親会社との取引による安定した経営が行える一方で、夢や目標を自ら描く機会に恵まれないという、子会社の宿命ともいえる問題に悩むグループ企業は多くあります。長年培われた体質を脱し、夢のある組織に改革するにはどうすればよいか模索している荏原電産の堀保之代表取締役専務に伺いました。

  • 株式会社荏原電産http://www.ebd.co.jp/

    1958年設立。荏原製作所の100%出資会社。荏原グループの風水力機械や環境プラントの電気、電子、計装、情報・通信・制御分野で多くの実績を誇る。

    HORI YASUYUKI

    1945年生まれ。67年、荏原グリスハイム株式会社(現・荏原電産)入社。75年〜82年、ブラジル現地法人のモータ工場立上げにあたる。85年に電動機部長、90年に取締役、2000年に常務取締役就任を経て、05年、代表取締役専務に就任。

  • 事業の再編を機に表出した社員の不満。
    改革の好機ととらえ、正面から受け止める。

    ────「わくわく企業」を目指す改革に、2005年から取り組んでおられると伺いました。その背景から、お聞かせいただけますか。

    昨年、私が当社の代表に就任した2005年のことですが、荏原グループ全体の事業再編が加速し、当社の事業の一部を、荏原製作所およびグループ他社に移管することになりました。それに伴い、五百数十名の社員のうち二百名以上を出向という形でグループ各社に送り出すことになって、当社は残った事業と社員でやっていくことになりました。ここで、出向した社員にも残った社員の間にも、会社に対する不平や不満、不信が渦巻く状況となりました。これ、私は"3F"と呼んでいるんですが、これを機に改革に取り掛かりました。

    当社は労働組合を持ちませんが、その代替機能を果たす従業員会が、社内のイントラネットに掲示板を設け、社員が意見を発信する場を提供しています。その掲示板に"3F"が、かなり率直に投稿されていた。最近ではずい分減りましたが、当初は相当に過激な内容や表現の投稿もありましたね。その多くが、経営幹部への批判であり、上司への不満でした。

    では、なぜ"3F"が起こるのか。結局は、会社が何を目指そうとしているのかが、現場に伝わっていないこということなんですね。そこで、今、マニュフェストってあちこちで導入されていますよね、あれを私も作成しまして、事業部長に下ろし、それを受けて事業部長に各自マニフェストを作成させました。それを部課長へ下ろし、管理職から社員へ下ろし、最終的には300名全員のマニフェストを作成するということをやりました。公約達成期限は3年です。このとき、私がマニフェストの中でうたったのが、「従業員がわくわく感を持って仕事に取り組む企業になろう」ということ。名づけて「ワクワクカンパニー宣言」です。

    しかし、実はあるコンサルタントに「マニュフェストでは上手くいきませんよ」といわれたこともありましてね(笑)。

    ────上手くいかないという理由は何だったのですか?

    MBO(目標管理制度)というものがありますよね。あれと同じだというのです。目標が形骸化してしまって、MBOのためのMBOになっているケースが世の中に多くありますね。マニュフェストも、作っただけでは形骸化してしまうという指摘でした。実際、マニュフェストは公表したものの、どうも上手くいかないんですね。現場に上手く伝わっていない。管理職の言語能力というか「思いを伝える力」に問題があると感じています。

    例えば、現場に伝わらないことの分かりやすい例でいいますと、こんなことがあります。今は、メールが発達していて大変便利ですね。ですから、私も役員への連絡にはメールをよく利用していました。同時に見て欲しい関係者にはCC(同報)をして、「○○をしておくように」などと指示を出すわけです。すると、受け取った人間はどうするか。私のメールを「社長がこういっているから、やるように」と関係者に転送するんです。そのまま、ですよ(笑)。これでは、ブレイクダウンになりません。それに気付いてからは、指示は手書きのメモで渡すようにしています。それも、他にそのまま回すことができないように、本人だけに宛てたメモ。カーボン紙が裏に貼ってあるメモ用紙がありますよね、あれを愛用しています。私も出した指示を忘れることがないよう、手元に控えは残しておくんです(笑)。

    まあ、これは極端な例ですが、中間管理職のマネジメント力の問題は大きいと考えています。

    ────管理職の方々も管理職研修は受けていらっしゃるものの、マネジメントの何たるかを「知っている」ことと「できる」ことにギャップがあるのは、なぜだと思われますか。

    研修は確かに実施しています。ただし、徹底していませんでしたね。一般的にいっても研修費は業績によって真っ先に削られる予算ではないかと思いますが、マネジメント力強化を目的に数年前に実施した上級管理職研修を継続できなかったり、徹底した教育は行ってこなかったと反省しています。

    また、もう一つ大きな要素としてあるのが、当社の事業構造です。現在の当社の主要事業はもの造りではなく、エンジニアリングや技術によるソリューションの提供。そこでは、工場のようにラインがあってチームを組んでというスタイルよりも、どちらかというと個人で取り組む仕事が多くなりがちです。その中では部長や課長といっても"一プレーヤー"であり、自分の仕事にかかりきりになってマネジメントに目が向いていないわけです。一人親方の集団というと、分かりやすいかもしれませんね。

    しかも、親会社との縦の関係が強いために、当社の組織も縦割り色が非常に強い。一般の会社なら、営業がいて技術者がいて納品後のフォローをする担当者がいてと、役割分担がありますよね。当社は、それを一人でやるんです。見積もりの作成から納入まで、全てです。親会社の営業が外部市場から受注したプロジェクトに電気・制御担当として参画し、その役割に注力するわけです。こうして、当社の他部門とのヨコの繋がりよりも、親会社の事業部とのタテの関係が強固になります。場合によっては、担当者を自由に人事異動することもままならない状況も生まれ、結果として人事が硬直します。

    また、親会社のラインの指示に従うことが求められますから、独創的な発想は不要となります。結果、自分で考えて工夫するという習慣も身に付かない。さまざまな問題の原因には、当社の事業構造ゆえの環境もあると考えています。

    エンジニアリングを軸に、もの造り事業も強化。
    仕事が目に見えることが、"わくわく"の源泉。

    ────グループ会社であるがゆえの事業環境が、背景にあるのですね。御社の売上高に占める荏原グループからの受注比率は、どのくらいになられるのですか。

    おおよそ80%になります。

    ────その比率も、今後は下げていこうとお考えでいらっしゃるのでしょうか。

    いわゆる外販は、増やしていきたいですね。ただし、これまでは売上高の六割が荏原製作所を窓口とする官需だったために、どんな技術がどのように民間に転用できるかはこれからの課題。官需やグループ企業向けに磨いてきた技術を、是非グループ外の民需産業分野向けに展開したいと考えます。また、今後は、メカトロ事業に力を入れ、もの造りも事業の核にしていきたいと考えています。やっていることが"見える"仕事が必要なんですね。

    経験の少ない分野ではありますが、既に数々の製品を生み出しています。最近の身近な例では、某著名ブティックの大阪店の改装に関わりました。ビルの外壁を壁画のように飾っている巨大なLED(発光ダイオード)パネルがあるのですが、これ、実は当社がアメリカの企業とライセンス契約して製作したパネルなんです。いってみれば巨大なテレビ画面のような物ですが、粒子を粗くすることでコストを下げ、さりながら映像はきちんと映し出す。この光の制御に当社の制御技術が応用されているんです。今回のブティックの場合は白黒のモノトーンでしたが、もちろんカラーも可能。都心の別な高層ビルでも案件が進んでいまして、そこでは壁面を流れ落ちる水をLEDパネルで表現できないかと企画中です。まあ、実際に水のように見せられるかどうかが問題ですが(笑)、こういった話題になる実績をもっともっと作っていきたいと思いますね。

    実際、現場には、熱意はあるんです。それを感じたのが、マニュフェストを作った際に、"タウンミーティング"と称して行った、部課単位でのミーティングでした。社員を集めて直接話してみると、一人ひとりは熱意を持っている。それが発揮されないのは、自分たちがやっていることが見えないからなんですね。

    ですから、こうした事例を社内で共有する仕組みも必要なんです。縦割り組織になっているために、他の部署が何をしているのか、横の情報共有が少ない。事業部単位ではイントラネット上にホームページを設けて情報共有をしていますし、私も個人のブログをイントラネットに開設して情報発信に務めています。このブログを書くというのがなかなか大変でして、ともすると更新しないまますぐに数日が経ってしまい、掲示板に「最近は社長のブログの更新がない」なんて社員に書かれたりもして(笑)。昨年に開設してからこれまでのアクセスが2万5000件ですので、社員はかなり見てくれているようです。

    経営情報も積極的に開示するようにしていまして、四半期決算はイントラネット上で公開し、半期決算では全社員を集めて、会社は今こうなっていると私が直接説明をしています。しかし、まだまだヨコの情報の共有が進まない。どういう方法が効果的なのか、思案しているところです。

    自分のしたことが認められ、注目されれば、
    人は"わくわく"する。

    ────最近は、個人のモチベーションのリソースが多様化しているように感じます。人が"わくわく"するためにはどのような事が必要なのでしょうか。

    自分のしたことが注目され、褒められて認められること。これが一番ではないですか。あることをして、それが評価される。そうすると、損得勘定抜きに仕事が楽しくなりますね。楽しい気分は伝染していくもの。これが"わくわく"の源になるのではないでしょうか。

    ですから、社員を褒める取り組みも始めているんですよ。管理部門で「月間MVP」という表彰制度を導入していましてね、こんな取り組みをした、こんなことを頑張ったという人を他薦して表彰するんです。

    実は、この制度には褒める以外の目的もあって、褒める側の人たちのことも狙っているんです。普段はあまり誉められることのない人事や経理、知財や品質保証といった間接部門である管理センター所属の管理職が、センター員30名中から今月頑張ったひとを推薦し、他部門の外部審査員数名にも参加頂き投票してMVPを選ぶのがこの制度のポイントなんですが、そうなると褒めるにも理屈がいりますね。感情的な好き嫌いで、「あいつのことは気に入っているから推薦しよう」というわけにはいきません。周囲が何をしているのか、何にどう取り組んでいるか、よく見てないと褒められない。毎月、管理職全員が必ず誰かを推薦するというルールにしているのですが、「今月は、推薦できるひとはいない」という人も残念ながらいます。推薦をよく出してくる人は、周囲をよく見ている人が多いですね。見ることで他者への関心が生まれ、関心が生まれることで情報の共有も進む。そこが狙いなんです。

    ────評価や処遇の仕組みとして、人事制度についてはどのようにお考えでしょうか。

    職責と役割を明確にする制度に変えていきたいと考えています。給与や賞与が年功序列で決まるのではなく、"責任の重さや仕事の大きさ"と"目標達成、成果"に応じて決まるという処遇が理想。もちろん、現在の待遇を突然変えるわけにはいかず性急な改革は難しいわけですが、年齢や学歴を問わず役割や職責で評価する制度にしていきたいと考えています。

    結局、今は、年功序列的に昇進・昇格が行われているために、マネジメントに関わるどうかを問わず管理職への登用がなされ、1つの組織が部・課長を複数抱えているというのが現状。そのことが、マネジメント力の低下にも関係していると思っています。それを、職責を明確にすることで管理職はマネジメントを担う者、そうでない者は専門職とコースを分けることも必要だと思いますね。

    改革に王道なし。社内の常識を疑い、
    他社のよい施策は積極的に真似をする。

    ────社長の個人ブログや月間MVPの表彰、人事制度の改革など、さまざまな手を打っておられるのですね。

    どんな方法が効果的かということは、いろいろ試してみないと分かりませんよね。自社に合った施策が良いなどといいますが、何もないところに自社のオリジナルを作ろうといったってそれは無理な話。他の企業を見ればそこにお手本があるわけだから、いいと思うことは積極的に真似をすべきだと思うんです。取り入れてみて、これはイケるなと思えば、そこから自社に合った形に工夫して定着させていく。その積み重ねだと思います。

    例えば、今、取り組みたいと思っているのが、"5S"。整理、整頓、清掃、清潔、躾(しつけ)の5項目、もの造りの工場なんかではどこも取り入れているアレです。私は、荏原のブラジル工場に長く駐在していましたし、再編前には電動機製造現場に深く関わっていましたから"5S"には馴染みがあるんですが、開発や事務系の部署にはこういったものがないために、フロアがけっこう雑然としていまして(笑)。事務職が使うファイル一つとっても、棚に何冊もあるわけです。こんなに必要なのかと聞いて、必要だといわれればそのままにしておいたのを、「減らせ」といってずい分少なくなりましたね(笑)。事業が成長して人を増やそうとなったときに、今のオフィスではこれ以上は入らないわけです。整理、整頓してスペースを空けておけば、いつでも人を増やせます。

    ────なぜ"5S"が必要なのかという背景を理解することも、大切なのですね。

    そうです。"5S"は業務の標準化にもつながりますから、縦割り組織の中でみんなが自分のやり方でやっていた状態から、標準化することで役割分担を進めることもできる。また、標準化されていれば、何かあったときには隣の部署の仕事もできるわけですから、組織が柔軟になって業務の効率化も進むはずです。

    ────しかし、中には、自分流の仕事の進め方にプライドを持っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

    そこが難しいところなんですね。先日あるフロアの座席配置図をみていたら、課と課の間に点線が引いてある。これは何だと聞いたら、境目だというんです。そこには昔、棚があって、互いの課を分断していたんですね。それで、まずは物理的な壁から取り払おうと棚を撤去したところ、代わりに点線が引かれていた(笑)。棚にある備品も、各部署それぞれが揃えていて、中には重複しているものもある。長年の習慣はすぐには変えられないとは思いますが、しかし、だからといってやらないという選択肢はありません。

    今、私が注目しているのがキヤノン電子工業の経営改革です。7年間で経常利益が11億円から120億円に、10.9倍になった会社です。その間、売上高の伸びは24%に過ぎません。その大元はやはり、生産方式の見直しにある。しかも、生産ラインに限らず会社中の効率を追求しているところがすごい。例えば会議は立って行うとか、執務も立ってできる部署は立ってやるとかね。工場のラインなどではよくこういう不満が出るんです──組み立ての俺たちは立って仕事をしているのに、管理部門は机に座ってタバコを吸っていると。ラインで何か問題が起きて管理部門に報告に来た時に、聞く相手が座っていると、何か威圧感を感じるんですね。それが、管理部門も立って執務することによってお互いの目線が揃って、そこに一体感が生まれるわけです。

    ────そういった、些細に思えることにも目を向けて、社内の常識や慣習を疑ってかかることが大切なのですね。

    そうです。当社でも会議を立って行うといった事なら導入できると思いますし、実際、私のデスクの横にある打ち合わせ机は、立って使うタイプのものに変えました。

    仕組みという"ハード"と、楽しむという"ソフト"。
    両面からのアプローチが、改革の秘けつ。

    もう一つ、同じやるにしても、遊び心が大切だと考えています。例えば、経理部門が取り組んでいる"5S"運動では、壁に部員の一覧表があって、当番が退社時にそれぞれの机を採点して、マルか三角をつけている。不合格の人には「○○さん、今日は三角でしたよ」と、ちょっとしたゲーム感覚でやっているんですね。不合格がバツじゃなくて、三角だというのもいい(笑)。

    ────"わくわく"企業を目指す改革がガチガチしたものであっては、"わくわく"しないですね。

    そう(笑)。ですから、制度や仕組みをきっちりと整えるという面と、月間MVPの表彰やゲーム感覚の5S運動など、遊び心を取り入れるという面と。その両方からアプローチしていくことが大事なんだと思いますね。

    ただし、やるなら徹底してやる。先ほどお話したキヤノン電子工業では、経営会議を10時間ぶっ通しで立って行ったこともあるそうです。それに耐えられない者は、役員に合わずということになると。よく、「とりあえず、これで」っていいますよね。しかし、「とりあえず」が、その先に進んだ試しはない。改革するときには、いかに変化をつけるかということが大切だと思います。

    イントラネットにある私の個人ブログは、『Porta ao Futuro ポルタ アオ フツロ』、略してPAOFパオフといいます。ポルトガル語で、『Porta ポルタ』は扉、『ao アオ』は向かうという意味があって、『Futuro フツロ』は未来。『未来への扉』、です。ブラジル駐在が長かったのでポルトガル語でつけたのですが(笑)。何を目指しているかが見えて、自分たちのやっていることが形になり、社会からも社内からも評価される。そんなワクワクカンパニーを実現したいと思っています。

    ────ありがとうございました。

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