2006年7月アーカイブ ..

日本システムウエア株式会社
人材開発部長 中村 武人さん

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    第二創業期を支える人材戦略

    これまでの事業基盤を武器に新たな事業展開に打って出る、「第二創業期」を標榜する企業は多くあります。そこで課題になるのが、既存事業から新しい事業を生むシナジー効果を発揮するにはどうすればよいのかという事。日本システムウエアの中村武人・人材開発部長にお話を伺いました。

  • 日本システムウエア株式会社http://www.nsw.co.jp/

    1966年設立。独立系のマルチベンダーとして、ソフトウエア・ミドルウエア・ハードウエアの各分野において、コンサルティングから開発、運用まで、データセンターサービスを含めたソリューションを提供している。

    TAKETO NAKAMURA

    1954年生まれ。77年株式会社事務計算センター(現・日本システムウエア)入社。97年に品質保証室長、2000年に能力開発室長への就任を経て現職。

  • さまざまな施策がスタートした第二創業期の幕開け

    ────平成16年に企業理念を、これまでの"Systemware By Humanware"から、"Humanware By Systemware"に改定されました。その背景には、どのような環境の変化があったのでしょうか。

    1966年の設立の当時から当社では人材を重視し、「人」という事を標榜して事業を推進してまいりました。そして1982年に、社名を「事務計算センター」から「日本システムウエア」に改称した際に、ハードウエア、ソフトウエアに対する概念として「システムウエア」という当社独自の言葉を作り出し、その時に企業理念のフレームワークが整いました。これを後に明文化したものが、"Systemware By Humanware"であり、創業以来の理念は、こういった経緯で生まれたものです。

    その当時に「ヒューマンウエア」として意識していたのは、社員の個性や感性、創造力といったものです。これらの個々の力をもとに、お客さまの役に立って社会に貢献できるようなシステムウエアを提供しようと。こういう意味合いの、"Systemware By Humanware"だったんですね。

    ところが今、時代も変わり、企業の社会的責任の比重が高まってきています。その観点に立った理念を発信すべきではないかという議論の中で検討された結果、長く使ってきた"Systemware By Humanware"を、"Humanware By Systemware"と改定しました。お客さまや社会環境、ひいては人類や地球環境などを含めた概念を「ヒューマンウエア」と捉えて、私どもが提供するシステムウエアが「ヒューマンウエア」に貢献するという気持ちを前面に出そうと。こういった経緯から、企業理念の改定に至ったという事です。

    ────理念を改定した事で、社内にはどのような変化が現れたのでしょうか。

    ITバブルの崩壊やインド・中国の台頭などのさまざまな外部環境の変化があり、理念の改定と相まって、社内の改革が一気に進みだした時でもありました。ですから、理念が変わったからという事ではなく、タイミング的には、同時進行的にいろいろな事が始まったといえると思います。

    ────具体的には、どのような事が同時進行で始まったのですか。

    既存事業の再編や新しいビジネスの立ち上げ、社内の横断プロジェクトや成果主義の導入、組織のフラット化など、いろいろな改革を行っています。

    これは、私の考えになってしまうかもしれませんが、いろいろな業界がある中で私どもは人によって成り立つ業界ですから、人材が変わらないと会社が変わらないんですね。経営者からも、「大事なのは人である」「人をどう変えていくか」という事を、かなり強いメッセージとして受けています。それに対する施策の一つが組織変更であったり、社内の横断的なプロジェクトであったり、採用の強化であったり、教育投資の強化であったりと。取り組みはさまざまに進めています。

    経営者と社員との距離を縮めれば、経営の理念や方針は社内に浸透する

    ────そういった改革では、経営が意図する事を現場の方々が理解する事が重要ではないかと思います。御社では、どのように働きかけておられるのでしょうか。

    いろいろある中で大きいと私が感じているものの一つに、経営者が主催するミーティングがあります。社内では「ダイレクトミーティング」と呼んでいるのですが、基本的には1泊2日の合宿形式で行います。人数を限って、経営層といろいろな層の社員がひざを交えて、夜まで話し合うんですね。経営者からは経営のビジョンや方針を直接語りかけますし、社員から質問があればその場で直接答える、要望で可能なものは採用してすぐに対応する。こういう取り組みを、2年前から行っています。

    これは社員に対しても、会社はこういう事をやります、あなたたちは何をしてくれるんですかと問いかける場でもあるわけです。そうすると、今までは受身で動いていた人材が、考えるようになってくるんですね。まだ、経営者が意図するところまでは達してないとは思いますが、自分で考えて行動する自立の方向へ、少しずつ向かいつつあると感じています。

    ────ミーティングにはその都度、いろいろな役員の方が参加されるのですか。

    役員は毎回、全員がフル出場します。一方の社員は、参加したいという者が優先ですね。公募もしますし、職場推薦もします。ただし、集め方はその都度変えています。例えば、同じ事業ラインだけで固める時もあれば、事業ラインを超えて開催する時もありますし、同期生でやる場合もあればいろいろな年次を混ぜる時もあります。

    ────ミーティング1回につき、参加者の人数はどの程度にされているのですか。

    役員も含めて40名強です。それを4〜5グループに分けてテーマを決めて丸一日討論し、翌日に成果を発表します。もう2年になりますから、ミーティングを経験した社員は、相当な人数になりますね。

    ────ミーティングで出される社員の方々の問題意識の視点は、短期的なのか中長期的なのか、その辺りはどうお感じになりますか。

    まず、会社からのメッセージとして中期的なビジョンや方向性を伝えます。どういう風にしようとしているのか、そのためには何が課題なのか、社員に期待するのは何かという事を経営者がきちんとプレゼンテーションしますので、中期的に会社が何を目指しているかという事は、理解が深まっていると思うんですね。

    それを受けた後の各グループ討論では、テーマをその都度決めています。中期的に討論させる事もあれば、まさにカレントに何をすべきかというテーマに絞る事もある。ミーティングごとに、今回はどういう風にしようかという事を、役員と事務局とが事前に討議して運営しています。

    ────ミーティングを開く前のご準備にも力をいれておられるのですね。

    そうですね。準備は大変です(笑)。

    ────社内の空気が変わってきたなという事を、お感じになりますか。

    非常にモチベーションが上がっていますね。今までは遠い存在だった経営者から、直接ビジョンや方針が聞けるわけですから。文章で見せられても理解できなかった事がきちんと説明されて良く分かったとか、自分も意見をいう事ができたとか、一緒になってやろうという気持ちが高まったとか、そういう声を聞きます。

    ────そこで話し合われた事は、社内で広報されるのですか。

    ミーティングの実施報告は、社内報に概要をリリースしています。また、社内限定のサイトがあるんですが、テーマや内容によっては話し合われた課題をアップして、その後の進捗状況も確認できるようにする場合もあります。対応はケース・バイ・ケースですね。

    フロー型ビジネスからストック型ビジネスへ。
    新規事業創出の源は、社内の横断プロジェクト

    ────事業展開としては、どのような手を打たれているのですか。

    中長期的な経営戦略に対する課題として、フロー型ビジネスからストック型ビジネスへのシフトというテーマを掲げています。背景には、ITバブル崩壊以降、顧客からのコストパフォーマンスへの要望が非常に強くなっているという事業環境の変化があります。中国を始めとする南アジア地区のオフショア開発の台頭が著しく、そういった意味でもコストパフォーマンスへの要望は強まる一方なんですね。

    もう一つは社員の問題なのですが、毎年新人を採用してはいるものの、40年も経つと高齢化も進んでまいりまして、社員構成が変わってきているという内部環境の変化もあります。

    こういった環境下で成長し続けるためには、限られたリソースを有効に使う事が必要です。つまり、受託開発といった従来のフロー型の事業は基盤として維持・拡大させつつも、その上に資本集約型、知識集約型のストック型のビジネスを立ち上げて、リソースをシフトしながら事業の転換を図っていく。こういう取り組みを、進めているところです。

    ────先ほど施策の一つとして挙げられた社内横断のプロジェクトも、これに関連してくるのでしょうか。

    そうですね。従来ですと、新規事業の立ち上げはミッションを持った部署が担っていたのですが、今は、全社の知恵を集めて検討することを重視しています。そこで、事業になるまで育てながら進め、事業化のメドが立った時に事業部門という形で組織化するわけです。

    これにはきっかけがありまして、4年ほど前に外部の専門家に依頼して社員研修を行ったんですね。その最後に、参加メンバーが成果を役員にプレゼンテーションしたんですが、この時に提案したのが、「初めて事業ラインを超えて各世代が集まっていろいろ考える事ができた、今後も、組織の壁を超えて情報交換できる場を設けてほしい」という事でした。それを経営層が受けて、翌年にプロジェクトが発足したのです。その中から、ストリーミング・ソリューション事業(ストリーミング技術を使った映像配信サービス)のように、事業として立ち上がったものも生まれています。

    ────プロジェクトメンバーはどのように選抜されるのですか。

    一概にこうという形はありませんが、参加メンバーに欠かせないのは、熱意やバイタリティです。事業を進める上で必要なノウハウや知識があるか、吸収できる素地があるかという付帯条件もありますが、最終的に必要になるのは新しい事にどれだけ取り組めるかという事なんですね。

    ────では、若い方も希望すれば参加できるのでしょうか。

    そうです。若手社員がリーダーに抜擢されるケースもあります。

    経営者が危機感を持って関わることで、組織のシナジー効果が生まれる

    ────横断プロジェクトから新規事業を創出するためには、どんな事が大切になるのでしょうか。

    経営者が真摯に現場の意見を聞き、一緒になって考えるという事が大きいですね。また、新しいものを自分たちで創り出す喜びとや面白さを体験的に得られる機会が増えてきている事も、いい影響を与えていると思います。

    組織変更も柔軟に行います。3年間を基本とする中期経営計画に合わせて2、3年に1回は大改定を行い、その後も必要があれば小改定を頻繁に行います。また拠点も、以前は首都圏だけでも複数に分散していたものを、今は渋谷に集約させています。近くにいるほうが横断的なプロジェクトやタスクフォースは活動しやすく、シナジー効果も強まるんです。

    ────経営の理念や方向性が組織に浸透するためのプロセスに非常に注力されておられますね。そういった事を通して、組織が活性化していくという事もいえるのでしょうか。

    はい。ただし、時間はかかると思います。私どもの風土は40年の歴史の中で築かれてきたものですから、これを一朝一夕で変えるという事は難しいと思うんです。しかし、経営者が危機感を持って先頭に立って取り組んでいるという事が、この先、大きな成果として出てくると思います。

    第二創業期に求めるのは、「自立型」の人材

    ────一方で、フロー型からストック型へという動きはご業界に共通するものかとも思うのですが、その中での御社の競争優位性をどのように捉えていらっしゃいますか。

    私どもの競争相手は、業界会社だけではないんですね。従来はIT技術そのものがコアだったのですが、今やIT技術は道具として当たり前になり、どの業界からも参入できる。異業種も含めて非常に競合が起きています。その中でどうやって勝ち抜くかという事が、重要になってくるわけです。

    その意味での当社の強みは、長く培ってきた流通業向けソリューションビジネスの実績をベースにして、上流のコンサルティングからシステム開発、運用・メンテナンスまで、データセンターサービスを含めたベストソリューションを提供できる事にあります。また製造業向けのサービスとして、LSIの設計からファウンダリー(製造請負先)を活用したチップの製造、さらには組込み系のソフトウエア開発技術を活かした製品化といったソリューションを一気通貫に提供できる事も、私どものコアです。これらを活かして、ストック型ビジネスへのシフトを行っていくということです。

    さらに、今後はどこでもネットワークにつながるユビキタスの社会になるといわれていますが、そうなった時に、私どものコアをうまく提供する事によって、お客さまに一番近いところでパートナーとして一緒にビジネスをやらせていただくと。こういうところへ強みを持っていきたいと考えています。

    ────フロー型ビジネスとストック型ビジネスでは、求める人材像も違ってくるといえますか。

    ご指摘の通りだと思います。フロー型のビジネスで求めたのは、高い技術力を持ってお客さまの要求を忠実に実現できる人材でした。一方でストック型のビジネスでは、「自立型」人材と呼んでいますが、お客さまにとって有効な解決手段を見出して提案し、自ら率先して事業として進めていける人材を必要とするようになってきています。

    ────それに伴って、採用や育成の方法にも変化はあるのでしょうか。

    そうですね。当然ながら採用は要件を明確にして強化していますし、組織変更や新しい事業を始めるタイミングで人材を投入するといった事をベースにしながらローテーションにも取り組んでいます。私自身のミッションとする教育面でも、取り組みがかなり変わってきていますね。

    自立型人材をどう育てるか。カギは「他流試合」にあり

    ────具体的には、どのような事に注力されているのですか。

    テーマは、自立型の人材をどのようにして育てるかという事です。当然ながら、社員にもさまざまな要求を出していかなくてはいけませんが、要求するだけでなく会社としての支援も当然の事として行っていく必要があります。どんなに苦しくても教育投資は惜しまない、教育は社員への支援だというのが経営者の考えであり、毎年、相当な規模の教育予算も計上しています。

    そこで今、経営層から打ち出されているのが「他流試合」です。社外をベンチマークして、競合他社と比べて自分たちはどうなのかという意識を持つべきだという事なんです。型にはまった規格型の人材を育てるのではなく、個を活かすという事ですね。

    大げさな事をいうと、幕末や明治維新の時に出てきた吉田松陰や橋本佐内といった、国家を動かすとまではいかずとも、社内において組織を変えていくような個の存在ですね。こういった存在がある目的に合致して集まったときに、大きな力になっていくんだろうと思うんです。こういった人材の育成が、今後のテーマであり、具体的には、年に一人か二人を選抜して、外部機関や他社に預けるというような形ができればと考えています。

    ────他社に、というのはとてもいい機会ですよね。

    いくら当社の中で競争して「勝った負けた」といっても、しょせんは社内の世界の事。現実には、成長している他社の人材と争って、勝っていかなくてはいけないわけです。他社が敵になるのか、アライアンスを組む仲間になるのかはわかりませんが、相手を知るという事は重要だと思っています。

    教育だけでは人材は変わらない。社員を伸ばす土壌を持つ事が大切

    ────自立型人材を育てるには、教育施策が重要だという事でしょうか。

    きっかけを与えるという意味では、教育は大事だと思います。しかし、教育そのもので人材が変わるわけではありません。本人の気付きや意識に依存するところが、大きいと思うんですね。ですから、そこまで達してくれれば教育としては一つの使命は果たしたかなとは思います。

    ────問題は、気づいた後にどうするかという事ですね。

    気づきを活かして活躍する場を与えて、オン・ザ・ジョブトレーニングで実践していく。こういう形のものを用意しなければいけないと思いますね。

    ────しかし、例えば社外に出て学習した事を社内で実行しようとすると企業体質や風土と相容れる事ができず、結局はスピンアウトする、リタイヤするというケースも、一般には多くあります。

    いちばん懸念されるのはそこですね。しかし、これは私どもの悪いところでもあり良いところでもあるのですが、他社のように組織がしっかりした形として出来上がっていませんので、戻ってきた時に新しいものを与えるチャンスはいくらでもあるんです。やる気さえあれば、抜擢されて一つの事業を任される可能性も非常に高い。現に、資質のある人たちは、そういったチャンスを与えられています。

    ────先ほどお話のありましたダイレクトミーティングや横断プロジェクトも、その機会の一つですね。

    そうです。昨年も若手を選抜して、事業の提案型の研修を実施しましたが、その中で提案されたものが今、事業の種として検討されています。また、研修で資質が認められた社員は、それなりのポジションを与えられています。

    ────改めて、中長期的な組織戦略や人材戦略としてどのようなテーマをお考えでいらっしゃるのか、お聞かせください。

    今まで申し上げてきた事の集約になりますが、ビジョンとしては自立型人材の育成と強固で健全な組織作りを今後も続けていくというのが一つの方針です。お客さまの要求や要件に対して満足していただけるビジネス戦略やソリューションを策定して提案できるだけでなく、高い収益も維持できる人材。こういう人材を輩出することが今後のテーマだと考えています。

    また、技術は基盤として当たり前のものになりつつある中で競争優位となるのは、お客さまが何を必要としているかを的確に把握する力。そのために必要になるのは、コミュニケーション能力や提案力、語学力、環境適応力、判断力や戦略眼といったような人材としての基礎的な力です。こういったものをどうやって磨くのかという事に対する取り組みをしなくてはいけない。それによって、幕末維新に出てきたような先見性を持って変化に即応できる有能な人材が輩出されれば、ビジョンの実現に向けた力強い戦力になると考えています。

    ────ありがとうございました。

株式会社サイバード
人事本部 人事企画室長兼人材開発室長 石川 浩二さん

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    ステージ転換期を迎えたベンチャーの取り組み

    企業には「創業期」「成長期」「成熟期」と、さまざまな成長段階があるといわれています。経営トップのリーダーシップが重視される創業期を経た後に、多くの企業が直面するのが、人材の問題。ベンチャー企業がステージ転換を迎えたときに、現場では何が起こっているのか。設立8年目を迎えたサイバードの石川人事企画室長にお話を伺いました。

  • 株式会社サイバードhttp://www.cybird.co.jp/

    携帯電話に特化したソリューション事業の先駆者として知られるベンチャー企業。1998年の設立から2年で店頭公開を果たし、設立以来連続の売上高2桁増で急成長を続ける。

    KOUJI ISHIKAWA

    1965年生まれ。89年リクルートコスモス入社。総務人事部で教育、採用を長く担当し、2001年に人事課長に。2003年8月にサイバードに入社し、管理本部人事マネジャーを経て、2005年4月から現職。

  • 自立したプロ集団の力を、組織の力に昇華する。

    ────1998年の設立以来、8年目を迎えられました。今、社員の方は何名いらっしゃるのですか。

    グループ全体で600名弱、サイバード単体では約270名、契約社員まで含めると400名近くになります。私が入社した2003年8月には約160名でしたから、その時点からでも2倍以上になった計算ですね。

    ────一般にベンチャー企業というのは、最初は仲間内でスタートし、ある段階から人材の公募を始めるといったステップを踏むように思うのですが、御社は今、どの段階にいるといえるのでしょうか。

    当社は、コンテンツの配信事業がメインの柱の1つとなっており、現在、100を超える公式サイトを運営しながら、年間で約100億の売上げがあります。その他、新規ビジネスなども含めると連結で150億の売上げとなっています。ITバブルが崩壊した後に、モバイルという新しい領域にさまざまな人材が集まってきたところがあって、着実に成長してきた一方で、極めて属人的な側面もある。その意味では、組織・グループにとっての最適化思考が浸透している、より高次元の組織運営の確立が必要なステージにあります。

    そこで、約100あるサイトを、伸びしろのあるものとサービスが完成されて安定的な運用をしていくものに分け、後者はコスト管理も視野に入れてやっていこうと。そういうサイトに関しては、ノウハウの可視化やナレッジの共有を徹底的にやっています。

    これは、2004年に開始した新卒採用にもつながるんですが、特定のこのサイトしか運用できない人材というのではなく、ローテーションさせながら、次のステップは垂直方向なのか、ちょっと斜め側にキャリアを作っていくのか、ビジネスを開発する方に移っていくのか、様々なキャリアを作っていける環境にしたいという狙いもあるんです。

    ────そういった課題に取り組まれる中で、ベンチャー企業が成長する上での人や組織のあり方について、重要なことは何だと思われますか。

    小さい組織でも、10人を超えるとリーダーのメッセージって届かなくなりますよね。経営もまったく同じで、創業の精神やベンチャースピリットみたいなものが、組織が大きくなることによって、行き届かなくなるんです。マインドも届かなくなるし、実際の情報も届かなくなる。

    それでいて、目標管理制度みたいなものが導入されてしっかり評価しようという話になってくると、どうしても目先の業績に集中します。そうすると、For the company、For the teamという発想がなくなって、個人主義的な動きになってくるんです。今はそのタイミングにいて、チームやカンパニーへの貢献に向かって会社全体がシフトしていく必要を感じています。

    組織活性化の起爆剤として新卒採用を開始。

    ────具体的には、どんな手を打っておられるのですか。

    2003年8月に私が入社して最初に考えたのは、2004年から新卒採用をしようということです。それを、経営陣とも約束しました。新卒が入ってくると、3年くらいで変わってきますよと。これは僕の考え方でもあるんですが、中途採用は経験を買うということですよね。ポテンシャルに投資するわけではない。本人にもプロ意識が強く、自分の業務領域を完全志向でやるという雰囲気が強いんです。

    ですから、若くて右も左も分からない新人が入社することで、教えたり、教えられたり、鍛えたりみたいな、本当にシンプルなことなんですが、そういった組織活性化の一つとしてのコミュニケーションを作ろうと考えたんです。

    ────新卒採用を開始する前に、何か準備されたことはあるのですか。

    実は現場に抵抗感がありまして。プロ意識の高い現場の社員からみれば、教えることはコストなんですよ。

    ────その抵抗のある先輩社員の方々を、どう説得されたんですか。

    説得はしてなくて、新人をけしかけたんです。採用が成功するかどうかは、採用活動の時点で分かれます。採用活動の場面で、いかにメンタルセットできるかということなんですね。ですから、実質的な一期生になる2005年入社組は20人なんですが、その20人に関しては、役員が直接語りかける説明会を開催し、その後にグループ懇談会を実施しました。グループ懇談会は1シーズン・3カ月ほどの間に、80回くらいやったんですよ。

    そのプロセスの中で、ベンチャー企業の職場とはどういう環境かということを、徹底的にインプットしたんです。先輩から教わるとか、先輩に頼るとか、そういうことではなくて、先輩そのものを変えろと。

    ────そういうことに、時間とパワーを使う人事が少ないですね。すべてエージェント任せにする会社も多いのではないでしょうか。

    本当にそうだと思います。採用って、採用マンの管理ができないとレベルがどんどん下がっていくんですよ。内定辞退者を口説けなくて候補者不足になってきて、求める人材とはちょっと違うけれどまあいいかっていうようなことが出てきたりしながら、採用レベルがどんどん下がっていく。そこを下げさせないように、徹底して採用マネジャーが管理していくプロセスが、実は必要なんです。

    私自身は、前職のリクルートグループでの採用活動を経験してきましたから、リクルートの創業者である江副さんがよくいっていた、会社の将来のサイズやレベルは採用こそが決めるという、その精神でやっています。

    ────新人の方々の共通の特徴としては、どんな方が多いのですか。依存的ではないタイプの方が多いようにも感じますが。

    そういうことには、注目していますね。ただし、人材像の議論はあまりしないんです。こういうタイプはダメというネガティブリストは作ります。日和見だったり、単なる評論家だったり。けれども、人材像の議論は不毛だと思っていますので、採用担当者にはネガティブリストを理解させたうえで、とにかくお前がすごいと思う学生を連れて来いと。それだけですね。

    マインドセットするには、同期の絆も大事だと考えています。採用選考は個別に進めますから、他にはどういう学生が内定者として決まっているのかを見せてあげることが非常に大事で、それをなるべく早いタイミングでするんです。

    ────どれくらいの時期にされるのですか。

    内定者が10人以上になると、そのユニットで開催します。学生って、周りを気にするんですよ。こんなベンチャーで、いいのかと(笑)。そこで、どういう学生が同期になるのかが分かると、ググっと確度が上がったりするんですよね。それは、他社もされていることだとは思いますが。

    それに、中途採用でも感じるのですが、就職活動をしっかりやって自分の思いで自己決定した人は、会社へのコミットメントがものすごく高いんです。当社のように経営者が若い会社は特に、トップの下で勉強する、トップの下で会社を変えていくという思いが強くありますね。

    ────そのコミットメントの求心力になっておられるのは、やはり堀会長でしょうか。

    日常的には上司や先輩であって、最後は堀です。中途でも新卒でも、選考から入社までのどこかのタイミングで、必ず堀の話を直接聞く機会を設けています。今日は、パンフレットをお持ちしたのですが、この『道』という冊子に書かれている「大胆かつ慎重に、信念を貫け」「仁を重んじ、礼を尽くせ」などの行動指針、これが堀の思いです。

    ────こういった理念や哲学めいたことは、若い方にはあまり歓迎されないのではないですか。

    いえ、それが若い人ほど共感するんです。時代がそういう感じになってきているのかなと思いますね。

    ────入社後のフォローはどうされているのですか。

    入社1カ月後面談というのをやっていまして、その後は入社半年目に新人に対する360度評価を職場で実施し、それを受けた研修を行っています。この研修では、職場に戻ってから上司や先輩に研修の報告をして、上司や先輩からは新人への期待や要望を伝えるフィードバックミーティングをやるんですね。大事なのはこのプロセスで、360度評価を実施する前に人事がマネジャーとミーティングをして研修の狙いを伝え、研修後のフィードバックミーティングにも人事が極力出席します。

    ────やはり、人事に思いがあることが大切なのですね。

    決められた業務を決められた通りにやっているだけでは、人は動かないですからね。

     

    新人育成に現場を巻き込む事で、
    風土や文化に変化が生まれる。

    ────そうやって入社前に意識を高め、入社後のフォローも手厚くされていたとしても、先輩を変えろというのは新人の方には荷の重い課題ではないでしょうか。

    そこは、現場と役割分担をしていまして、入社前研修は人事で開催しますが、入社後のコンテンツビジネスの基本を学ぶ機会というのは、現場に担当してもらっています。現場には新卒採用の必要性を共感してくれる部長もいて、現場の中に人材育成部というのを彼が兼務で作りました。入社後の1カ月間のコンテンツの制作の研修を企画したり、プレゼンの場を設けたりといった研修を仮配属期間の1カ月の間にやるんです。

    ────それには、先輩の社員の方も参加するのですか。

    ええ、そういう巻き込み方は意識しています。ですから、リーダークラスには新人を受け持って、きちんと育てなくてはいけないという意識は、少しずつ芽生えてきましたね。前回は初回ということもあって、準備期間も3カ月くらいあったんじゃないでしょうか。関わる先輩も、いろいろ変えています。入社した新人が、次の年には先輩として教える立場になって、数珠つなぎのように、教える・教えられる関係を作っていこうという話を現場とはしているんです。

    ────現場を巻き込むときに一番大事なことは、どのようなことでしょうか。

    話をすることですね、しっかりと。IT企業ですから、通常の連絡事項はすべてメールなんです。そこを、メールで伝えるだけでなく、しっかりと直接会話する。これは大事です。役員会でも、採用で現場には負担をかけますということを宣言し、オーソライズをとりました。入社1カ月後面談でも、上司のマネジメントがうまくいっていないという話があったら、その上司と直接ミーティングをして、どうなっているんだという話をします。そういうコミュニケーションは、大事にしていますね。

    組織改革が自律回転する土壌ができあがりつつある。

    ────新人の方が入社して、社内の雰囲気に変化はありましたか。

    先ほどもお話しした、ナレッジの共有化やノウハウの可視化といったプロジェクトが走り出しています。ただ、いまだに新人を受け持つことに抵抗がある人もいれば、新人を非常に優秀だと感じているリーダークラスもいて、現場は両極端ですね。

    ────面倒見のいい先輩社員に、新人育成が偏ることはありませんか。

    それは、自然と分かれていきますね。プレイングマネジャータイプの人にとっては、部下を抱えるというのは相当なストレスです。ですから、組織が得意か不得意かは事業運営するとよくわかるらしくて、苦手な人は自然とプレイングマネジャーになっていきます。

    ────それは、どちらの道もあってよいということでしょうか。

    あっていいと思います。今までは、極めて高い成果報酬型の社員と通常の評価で報酬が決まる社員と2通りの位置づけがありました。そこにマネジメントの視点はなかったんですが、今後は、組織を持たないマネジメント職もあってもいいと思いますね。

    ────ある情報技術関係の企業の経営者が、プロジェクトマネジメントとラインマネジメントの能力は違うといわれていました。また、プロジェクトは成果を出せば評価されるけれども、ラインマネジメントは成果が目に見えにくいのであまり評価されないという面もある。けれども、ラインマネジメントをきちっとしないと、プロジェクトマネジメントの成果は出せません。そういったことへの理解は必要ですね。

    今のお話は、技術系の現場にはよく当てはまりますね。プロジェクトで開発しますからそこにはプロジェクトマネジメントがあって、一方で上位管理者はそういったプロジェクトをいくつもマネジメントするという立場で。非常に難しいですよね。

    ────マネジメントが機能する組織をつくるには、次にどんなステップがあるのでしょうか。

    新人の数が圧倒的に増えてきていますので、この後は自力回転していくような気がしています。昨年に20名が入社して、今年は30名、来年は40名程度が入社予定ですから、約100名弱が新卒になるんです。つまり、社員の3分の1は新卒ということですから、マジョリティに近づいているわけですね。

    ですから、自力回転していくだろうなとは思っていますが、先ほど冒頭でいいました業務が属人化しないためのシステム化や必要な情報を自分で探せる社内のイントラネットなど、そういったことが今後のカギかなという気はしています。何であれ、情報を開示して知るということはとても大事だと思うんです。

    制度だけを変える改革はうまくいかない。
    手をつけるべきは、採用や教育。

    ────お話をお聞きしていると、ベンチャー企業であっても、マネジメントをうまく機能させるというオーソドックスな課題が大切だという気がします。

    そう思います。ベンチャーの人事はどこも同じような悩みを共通して持っていますね。社員の定着が問題だったり、経営者のコンセプトが行き渡らなくて社員が短期的な目標にとらわれがちだったり。すごく似ています。

    その一方で、問題は人事制度にあるといって、中でも評価制度に手をつける企業が多いという印象があります。けれども、評価制度に問題があるケースって、実はそんなにないんです。問題は、評価を運用している人にあるわけですよ。

    ルールを見直そうという話になると、社内にものすごく過剰なストレスが蔓延します。今までマルだと評価されていたものが、バツや三角になったりするわけですから。そのことのコストって、人事以外の人には案外分からないんです。特に経営者は理解してないケースが多い。だから、ルールを見直せって取り組むんですが、失敗する。そんな会社が多いという気がしますね。

    ────そして、人事コンサルタント会社のいい餌食になる。

    そうです。変革ありきで人事がリードして旗振り役をやると、たいがい失敗しますね。本当に手をつけるべきは、採用と教育です。当社はすでに評価制度を変えましたので、新制度をベースに評価の目標設定のやり方やフィードバックの方法を学ぶといったことが今後の課題。着任当初は新卒採用に集中しましたが、次はマネジャーやミドルクラスの本当の役割を学ぶ研修をスタートさせたいと思っています。

    ────組織を変えるのは簡単なことではないのですね。

    時間はかかりますね。10年はかかると思っています。3年で、新卒の採用活動が滞りなくできるようになり、定着もしました。けれども、それが風土といった会社の根幹に関わるところで変化が出てくるには、5年や10年はかかるのではないでしょうか。

    ────組織のステージを変えるために一番大事なことは、何だと思われますか。

    やはり、経営者が本気で旗を振ることですね。それにつきると思うんです。たいていの経営者は組織の悩みを抱えているものだとは思いますが、解決を外部に丸投げしたりとかね、そういう人が意外と多いんですよ。

    人はなぜ頑張るのか、その本質は不変。
    ベンチャーだからという特別論はない。

    ────最後に、ベンチャービジネスでの人や組織にとって、これだけは大事だと思われることは何でしょうか。

    2つあると思いますが、1つは、ベンチャーだからといって特別だということはないということです。もう1つは、ルールや制度などの小手先に走らないで、社員のパッションや思いに働きかけて、みんなのベクトルを変えることが大事だという気がします。ロジカルなテクニック論に走っても、それでは社員はついてこないです。

    これの話は蛇足かもしれませんが、新卒採用一期生で入社した中の一人が、この度、実家を継ぐことになりまして。その彼が、最後にいいことを言ったんです。自分の成長のためにITベンチャーを選んだけれども、自分のためだけでは頑張れないことに気づいたと。今の若い人ってみんな、自己成長とか自己実現とかっていいますね。けれども、それでは頑張れない。僕は、親や家族のために頑張る事を決意しました、それなら頑張れそうですと。まさか、2年目の社員にそんなこといわれるとは思わなかったのですが(笑)。

    ────誰かのためにというのは、真実をついていますね。

    この人にためにとか、この組織のためにとか、そういう思いで人って頑張れると思うんですね。組織運営は、そこを忘れては上手くいかない。そう思います。

    ────ありがとうございました。

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