現在は地震の影響で休園中であるが、ディズニーランドのリピート率の高さは有名だ。
この不況下においても、いまなお90%近くのリピーターを抱えているといわれている。
客の心を虜にするディズニーランドの魅力とは何か。たとえば、数年ごとに登場する
新しいアトラクションやシーズンごとに装いを変えるパレードなど、ファンを飽きさせない
演出や戦略はもちろん素晴らしいが、一番の魅力は、私は、キャスト(従業員)のホスピ
タリティにあると思っている。
さまざまな著書の中でもキャストによる心温まるエピソードが多数紹介されているが、私
の友人が、噂は本当かとこんなことを聞いてまわったという。「ダッフィーのぬいぐるみは、
どこで買えますか?」。菓子を売っている人、掃除をしている人、アトラクションの案内を
している人......ディズニーランドの園内で、出逢ったキャストに端から声をかけたそうだ。
ダッフィーというのは、ディズニーシーに登場するクマのぬいぐるみをモチーフにしたキャ
ラクターのことで、グッズ類もお隣のディズニーシーでしか購入することができない。この
質問をあえてディズニーランドでしたところ、すべてのキャストが「ここでは販売していない」
ということを即答し、販売していないことを丁寧に詫びたという。なんと、警備員のおじさん
までもが、だ。すべてのキャストが、その事実を把握していたということに驚いたという。
元々ディズニーランドが大好きで働いている方々がほとんどなのかもしれないが、"ファン
なら知っていて当たり前"のひと言では片付けられまい。ここには、自分の持ち場の仕事
だけをしていればいい、という姿勢のキャストがひとりとしていないのだ。マニュアルだけ
ではなく、個人的にも施設のことを勉強しているのだろう。最高のおもてなしでゲストを
迎え入れたい、という思いが皆から伝わってくる。「目の前にいる人の"困った"を解決し
てあげたい」、「楽しい思い出をたくさん作って帰ってもらいたい」という気持ちが幾重に
も重なって、"夢の国"というスペシャルな空間を作り上げているに違いない。
訪れる者をハッピーな気持ちにさせるのは、ほかでもない、マニュアルを越えたキャスト
のおもてなしの心ではなかろうか。この話を聞いて、ディズニーランドが稼働し始めたら、
しばらくぶりにまた足を運んでみたくなった。
震災の影響で経済活動の縮小が大いに懸念されるが、こんな時だからこそ、真のおも
てなしというものを改めて考える必要がある。単なる商品やサービスの提供だけでは、
もはやこの苦境は乗り越えられないであろう。お客様が望むこと、喜ぶこと、感動する
ことは何なのか――。人の心をつかむプラスαの武器があれば、どんな時代であろう
と必ず顧客はついてくるはずだ。いまこそ、企業としての真価が問われている。