大阪出張の帰りに、学生時代を過ごした京都の街に立ち寄った。在住していた頃から
史跡を観てまわるのが好きで京都中の寺社を巡ったが、最後にこの街を訪ねたのは
もう4、5年も前のことになる。久しぶりの機会なので、「日が暮れる前に」と、ある寺に
足を運ぶことにした。
数年ぶりに訪れた京都の寺は、私の想像を遥かに上回る感動であふれていた。まず
驚いたのは、それまでの喧騒を一瞬にして忘れさせてくれる凛とした雰囲気。境内に
足を踏み入れた途端、空気感がガラリと変わるのである。住んでいる時は気付かなか
ったが、この"ギャップ"は、街中に多くの寺社が現存する京都ならではのものなのだろ
う。自然に囲まれた鎌倉の寺社を訪れた時とはまったく異なる印象を受けた。さらには、
見る者を圧倒する、その堂々とした佇まい。息をのむほどの存在感に、宮大工が受け
継いできた日本古来の建築技術の奥深さを改めて痛感した。
実はこの寺、最近になって大掛かりな改修工事が行われたというが、素人目に見ても
何百年も前の姿が完全に遺されているということが分かる。丁寧に磨き上げられた柱
や廊下には歴史を重ねた材木が放つ独特の甘い香りが漂っていたが、見えないとこ
ろに駆使されているであろう最先端の技術を思うと、それもまた感心せずにはいられ
なかった。
現代の技術を取り入れた歴史的な建造物を眺めながら、あるおばあちゃんの言葉をふ
と思い出した。
「暑さを元気に乗り切る秘訣は?」
とは、長引く猛暑で多くの高齢者が体調を崩していることを受け、テレビ番組の司会者
が投げかけた質問だ。すると、100歳を優に超えるおばあちゃんは、元気にこう答えた
のである。
「クーラーが嫌だとか、扇風機が嫌だとか、頑固なことを言っていちゃダメよね。その時々
の状況に柔軟に対応して、新しいものも取り入れていかなければ長生きなんてできっ
こないのよ」。
人も建物も、企業も、長生きの秘訣は同じなのかもしれない。セミの声にぼんやりと耳
を傾けながら、そんなことを考えた夕暮れのひと時であった。