2010年11月アーカイブ

物心がついた頃から、茶の間にいつも置いてあった地元の銘菓。子どもの頃、家族で
出かけた近所のラーメン屋。お金のなかった学生時代に通った馴染みの食堂。誰にで
も思い出の味、懐かしい味というものがあるだろう。

久しぶりに食べた当時の"ご馳走"の味に、「うーん、こんなもんだっけ」と、期待を裏切
られたような気分になることも多々あるが、「これこれ、この味! いつ食べても旨い」と、
ひと口食べて懐かしさがこみ上げてくることもまた多い。けれども実は、昔のまま味が
変わっていないというのは、前者の方。後者に該当する商品のメーカーやメニューの
作り手に話を聞いてみると、驚くことに「実は少しずつ味を変えているんです」と、皆口
をそろえる。

「"変わらない"味を提供するために、味を"変える"」とは、一体どういうことなのか。

たとえば業界のなかでも"老舗"と呼ばれるラーメン屋。いわゆる昔懐かし系の中華そ
ばを扱うお店だ。親子三代にわたって通うファンもいるというこの店の店主は、「日々の
進化なくして、変わらない味は守れない」と言い切った。時代や嗜好の変化に合わせて、
少しずつマイナーチェンジを繰り返しているのだという。何十年も前の味をそのまま出し
ても、食べ手が昔から"旨い"と感じて食べている料理にはならないからだ。

別の人気店のシェフの方はこんなことも言っていた。「野菜もお肉も、育てている人が
改良を重ねてよりよい物を作ってくださるのに、それを調理する人が料理に改良を加え
なくて何とするか」と。この店もまた、同じ料理でも少しずつ作り方を変えて、"変わらな
い"味に磨きをかけている。

共通して言えることは、人気店、老舗ほど日々の研鑽に励み、少しずつ味を改良して
いるということ。これは、食べ物に限らず、物やサービスを扱う店舗や企業であっても、
同じではなかろうか。売れるから、受けているから、と現状にあぐらをかいていては消
費者の心を長く惹きつけることなど、到底できないからである。時代の流れにしなやか
に対応し、ブラッシュアップを重ねることこそが、商品やメニューの味や価値にホコリを
かけさせない秘密。時代を超えて愛されるロングセラーとは、まさに小さな改良の"積
み重ね"の上に成り立っている。


ランドセルの幅を1センチ大きくしたところ、売り上げが2倍近く伸びているブランドがある
という。来春からの脱ゆとり教育を前に、A4クリアファイルがすっぽり収まるサイズのラ
ンドセルを開発したのだそうだ。業界内には「1枚のクリアファイルのために、むやみに
大きくするべきでない」という声もあるそうで、"大きな"ランドセルを販売するのではなく、
"小さな"ファイルを配布することで応戦するメーカーも現れている。両者の賛否はさてお
き、以前から「A4ファイルがまっすぐに入らない」という消費者からの不満の声が寄せら
れていたということや、今回の売り上げ増の実績などから見ても、ヒット商品を生み出す
うえで、消費者の声というものがいかに重要なものなのかということが伺える。「A4ファ
イルが入らない」という声を、最初に拾い上げた担当者にまず拍手をおくりたい。

「お客様からのクレームや要望は、成長のきっかけとなる宝であふれている」と、積極
的に消費者の声に反応する企業が増える一方で、商品を買う立場、サービスを受ける
立場に立ったとはとても思えない企業も存在する。

たとえば、先日、使ったあるタクシー会社には本当に驚いた。深夜の乗車だったのだが、
信号無視や急停車は当たり前。道の確認もないまま目的地から遠ざかるわ......。挙げ
ればキリがないが、あまりの態度に改めて説明をする気も失せ、「もう、この辺りでいい
です」と告げると、大通り車道でここで降りろとばかりに急停車。挨拶もなしに急発進で
去っていく後ろ姿を呆然としながら見送った。これまでの人生の中で、まさに最低最悪
の接客と言っていい。やんわりとではあるが、会社のHPに、「因縁ではなく、乗務員に
非がある場合はご連絡ください」と書かれていたのにも驚いたが、「苦情はこちらまで」
というアドレスに送ったメールが宛先人不明で舞い戻ってきた瞬間に、二度目の利用は
ないと確信した。流しのタクシーの場合、同じ乗務員と出合うことは恐らくないのかもし
れないが、「二度と会わないから」という理由でずさんな対応をとっていいものか。こうい
う評判ひとつひとつの積み重ねが、会社の信用につながっていくのだと改めて感じた出
来事であった。

物が売れない時代でも、ヒット商品や好調企業は確実に存在する。品質や技術は然る
ことながら、いい商品、いいサービスに"心"を感じてしまうのは私だけだろうか。買う立場
に立って作られた商品や、受ける立場に立って考えられたサービスというのは、相手の
心にもきっと響く。

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