2010年7月アーカイブ

近頃、仕事の関係で東京・日本橋の街をよく訪れる。街中を歩いて気付いたのだが、
この街にはとにかく老舗が多い。それも、果物の専門店「千疋屋総本店(1834年創業
)」や飴で有名な「榮太樓總本舗(1857年創業)」といった、格式高い老舗とは日頃無縁
の私でさえもその名を知る名店ばかりだ。一体、どれほどの老舗がこの街にはあるの
か。

調べてみると、日本橋をはじめ、銀座や築地などの街を抱える東京・中央区には、実
に350件以上もの老舗企業が点在していることがわかった。帝国データバンクの調査
によると、全国には約2万社(企業全体の約1.6%)の100年企業が存在するというが、
最も多く老舗企業が所在している都道府県は意外にも東京都(1,675件)なのだそうだ
(私はてっきり、発展の歴史が長い京都だとばかり思っていた。※京都は各都道府県
別企業数に占める長寿企業数の割合が全国1位)。さらに驚くべきは、中央区というこ
の小さなエリアに、東京都に所在する20%以上の老舗企業が密集しているということ。
恐らく、ここ中央区は、日本で一番老舗が所在するエリアと言っても過言ではないだろ
う。

長い歴史を持ちながらも、今なお廃れることのないブランド力の秘密はどこにあるのか。
東京商工会議所中央支部の調べによると、中央区内の約70%の老舗企業が「社訓
(家訓)や経営理念(社是)がある」と回答したそうだ。例えば、前述の千疋屋総本店の
経営理念は、「本業第一」。バブルの時も株や不動産に手を出さず、多角経営もしな
かったという。フルーツという軸をしっかり持ち続け、邁進してきた成果が今日のそれ
だろう。榮太樓總本舗もまた然り。「甘味喫茶をはじめとする副業はあくまで補助エン
ジンであり、本業の和菓子の製造販売を重視せよ」と教えられてきたという。

しかし、「本業、本業」と謳いながらも、これらの企業が決して"保守的"というわけでは
ない。例えば、千疋屋総本店では高級フルーツばかりでなく、今ではフルーツを使った
手ごろなスイーツも販売しているし、榮太樓總本舗では、「時代が変わろうとも『金つ
ば』の味は断じて変えぬ」という頑固な姿勢を貫く一方で、時流を汲み取り、伊勢丹限
定ブランドの飴の専門店「Ameya Eitaro」をプロデュースしている。確かに、千疋屋総
本店のフルーツサンドイッチは時々無性に食べたくなるし、Ameya Eitaroの商品は、
実にポップでついつい足を止めてしまう。老舗の高級商品とはまるで無縁だった私も、
見事顧客層拡大の策にはまっているというわけだ。

榮太樓總本舗では「暖簾は守るものではなく、磨き育てるものである」と、教えている
そうだ。「時代に流されないことは大切だが、乗り遅れてはいけない。時代にあったや
り方を選ぶことが"暖簾の育て方"なのだ」、と。伝統とは、"保守"に"革新"というスパ
イスを重ねることで受け継がれていくものなのかもしれない。

参考文献:「老舗企業の生きる知恵」~時代を超える強さの源泉 東京商工会議所中央支部

TVCMで耳にした「針のいらないホチキス」というフレーズが、どうにも気になって調べ
てみた。
製造元は2005年に創業100周年を迎えた、大手文具メーカーのコクヨ。このホキスに
紙を差し込み、ハンドルを握るだけで、針を使わずに用紙をとじられるのだという。
U字型に切れ込みを入れた部分を折り返し、別の切れ込みを通すことで紙をとじる。
針によるケガの心配や新たな針の購入の必要がないばかりか、シュレッダーで書類を
処分する際の分別も必要ない。まさに、画期的な商品といえる。

針を使わずに、一体どのようにして紙をとじるのか。製品の仕組みが気になったのは
もちろんなのだが、私がこのCMを気になった一番の理由は、「針を使わないホチキスを
作ろう」という"発想"に感服したからである。「ホチキスとはどんな道具か」と問われた
ら、大抵の人は「針で紙をとじるもの」と答えるのではないだろうか。例えば、「ホチキス
の新製品を考えなさい」と言われたら、「力のない人でも簡単にとじられる」とか「収納時
の利便性を考えてデザインを改善する」といった、従来のものに機能性を"プラス"する
アイディアは思いついても、「針を使わない」という、ホチキスの概念から"マイナス"する
発想は容易に浮かぶものではないだろう。どれだけ頭をひねったとしても、少なくとも私
には、おおよそ思いつく自信がない。

これまでも、コクヨの商品には度々驚かされることがあった。例えば、2003年に発売した
10個のキューブを組み合わせた「28個のカドを持つ消しゴム」。すぐに丸くなってしまう
普通の消しゴムとは違い、次々と新しい"カド"が使えるようになるので、細かい部分を
いつも快適に消すことができるという。ユニークな形状の消しゴムがこの年のグッド
デザイン賞を受賞したことは、私の記憶にまだ鮮明に残っている。さらには、2年ほど前
に発売された「ドット入り罫線ノート」。この商品は私も愛用しているが、ノートが美しく
とれるという優れものだ。すべての横罫線に等間隔のドットが入っているため、各行の
ドットとドットを結ぶだけでフリーハンドでも美しい線を引くことができる。図や表がきれい
に描けるばかりか、文字の書き出しも揃えられ、切り取った資料もまっすぐ貼ることが
できるという。当初から「東大合格生のノートのとり方を研究して生まれた製品」として、
各方面から広く注目を集めていた。

ホチキスは紙を針でとめる道具で、消しゴムは四角、ノートは罫線だけが引いてあるも
の......。そんな固定概念にとらわれていた自分が恥ずかしい。「シンプルがある故に、
どれもすでに完成形にあるのでは」と勝手に思い込んでいた文房具が、思わぬ形で―
―それもよりよい商品となって登場する度に、毎度のことながら感心してしまうのである。あぁ、こんな発想もあったのか、まだまだ改善の余地はあったのか、と。どんなことにも"これでよし"という終わりはないのだ、と。

文房具というひとつの分野に注力しながらも、固定概念を打ち破り、新たな発想を持ち
続けるコクヨ。長寿の秘訣たるやを改めて考えさせられた、新商品発売のニュースであった。

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