2010年4月アーカイブ

環境への配慮から、マイ箸を持ち歩いている人も多いのではないだろうか。
箸を使って食事をする文化は、世界の約3割と言われているが、スプーンやレンゲ

などを併用せずに箸だけで食事をする国は、日本だけなのだそうだ。
箸は我が国に古くから伝わる大切な文化のひとつである。

 

少し前に、箸を作る職人さんと話をする機会があった。大正初期から

約100年続く、伝統の技法を引き継いでいるという方だ。元々サラリーマンだった

というこの職人さんが作る箸は、伝統を守りながらも、実に独創的だったのを

覚えている。五角形、六角形、七角形、八角系......工房に併設された店内には、

実にさまざまな形の箸が並べられていた。
「手の形は人それぞれ違うのに、箸の形はなぜ丸と四角だけなのか。靴を選ぶ

ように箸も自分の手にしっくり納まるものを選んでほしい」
言われてみれば確かに。箸の形に決まりはないはずなのに、こうあるべきという

勝手な先入観を持ってしまっていたのは、きっと私だけではないだろう。

 

持ち手部分だけではなく、箸先の太さや形状も、それぞれの箸で全く異なって

いたのも印象的だった。いわく、「食べ物でも箸を選んでほしい」とのこと。
「たとえば、先が平たくなっているものなら大きな具も挟みやすく、先角が

太めのものならば豆腐のようなやわらかな食材もくずれにくい。納豆を混ぜる時は、

箸先が丸くなっていた方が使いやすいでしょう?」
たかが箸、と思っていたが、なるほど。"つまむ"という単純な作業ひとつとっても、
言われてみるとなかなか奥が深い。

 

下町の住宅街。大きな看板も出さず、ひっそりと佇むその店には、絶えず

客が訪れていた。
"たかが箸"でも、工夫次第で多くの人を遠くから呼び寄せることができる。
考えてみれば、日本には1000年以上もの箸の文化があるのに、これまで、

その形状に手が加えられることはほとんどなかった、ということの方が不思議

というものだ。
どんなに歴史がある物であっても、どんなに単純な仕組みであっても、「これで完璧」
というものなど存在しないのかもしれない。どんな物も、まだまだ良くなる可能性を
きっと秘めている。

一説には、国内旅館の9割以上が赤字経営だとも言われている。
景気の低迷が続く現代は、旅館やホテル業界にとっても厳しい時代。
老舗と呼ばれる旅館にも再編の波が押し寄せている。

 

歴史ある宿泊施設が次々に廃業へと追い込まれるなか、順調に増収を重ねて

いる施設もある。
創業100年を超える温泉旅館「星野旅館」から、一大リゾートとして見事な再生を

遂げた「星野リゾート」が代表的なそれだ。


昔ながらの旅館サービスから一転、24時間のルームサービスやいつでも好きな

時間に摂れる朝食など、客目線に立った新サービスを積極的に取り入れ、成功を

果たした。
「時間にとらわれない、ゆったりとした空間を提供したい」、と客室には時計も

テレビもないが、非日常を体感できるリゾート空間として、大きな反響を呼んでいる。
なかには、70連泊していった客もいるというから驚きだ。

 

社長の星野氏は、今やリゾート再生のカリスマ的存在。
家業の旅館だけでなく、山梨・小淵沢のリゾナーレや福島・磐梯のアルツリゾート

など全国のリゾートを次々に再建した実力者として知られている。
徹底したマーケティングリサーチや明確なコンセプト作りも然ることながら、星野氏の

再生手法には必ず人財育成も含まれるという。
「従業員のやる気と自主性を引き出すことこそが最終目的」と星野氏。
最も重要なのは、"箱"ではなく、やはり"魂"の部分にあるようだ。

 

旅館業に限った話ではないが、老舗だからといってあぐらをかいてはいる時代は

終わった。
伝統的なサービスを軸として残しながらも、新しいアイディアを柔軟に取り込んで

いくことこそが生き残りの鍵。
世の中の風を読み、変わり続けていくことこを拒んでいては、もはや不況を乗り切る

ことはできないのである。

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