2008年10月アーカイブ

(4)二律背反の統合


二律背反とは、相反すること、矛盾である。
平たく言えば、「一方によいようにはからうと、もう一方に悪くなる」、「あちらを立てれば、こちらが立たぬ」という状況に陥ることである。
物事の両立しがたいことのたとえに使うが、経営における意思決定においては、常に二律背反性の問題に突き当たると言っても過言ではない。
特に、人事部が抱えている今日的課題の多くは、相矛盾する対立軸を人間の高い叡智で如何に統合化するかである。
今日的課題とは、「営業時間は長く、労働時間は短く」「賃金は高く、労働分配率は低く」「リスクは小さく成果は大きく」・・・「生産性と人間性」「個人と組織」「厳しさと温かさ」など、今までのような二者択一的な解決を許さない状況にある。
まさに、人間の高い叡智で如何に統合化するかである。
「叡智」とは、『広辞苑』によれば、「深遠な道理をさとりうるすぐれた才知」とされている。
人事の今日的課題は、過去の経験に囚われることなく柔軟な発想ができないと、ブレイクスルーできないだろう。
次の3点で着眼点を変えてみよう。
(1) 目的思考で考える
人も組織もその存在の目的、目的は分からずとも、その意義を確認できれば、未来に向かって力強く歩むことができる。
目的を明確にすることは、組織やメンバーに強い動機付けを与え、現状に変革をもたらす。
もう一度目的(何のために)を問うことから始めること。
目的と手段・方法を混同するようなことがあってはならない。
(2) 未来思考で考える
現在から未来を設定し、設定した未来から現在をふり返って考えていくことで、未来に軸足をおいて考えることである。
10年後も今のままで対応しえるのか、過去の成功体験やしがらみを捨て、柔軟な発想を持たなければならない。
(3) 統合思考で考える
   「統合」とは、分離や排除の考え方に縛られることなく、思考や行動、感情などを1つの目的に沿ってまとめていくことである。
哲学者のアリストテレスは、説得には次の3種類があるといっている。
①エトス・・・話しての信頼性によって行われる説得
②パドス・・・聞き手の感情を動かすことによって行われる説得
③ロゴス・・・理論そのものによる説得
このうち最も有効な説得は、エトスであると、言っている。
話し手=人事部 聞き手=従業員とすれば、人事管理の要諦ともいえる。
自らの思想性を高め、高い価値観を習得し、「目的・未来・統合的な思考」ができる
ようになれば、二律背反的な課題は必ず克服できるであろう。 

 

On The Business Training 協会 栗田 猛

(3)被雇用能力と雇用能力

 

雇用に関するキーワードとして、「雇用能力」と「被雇用能力」という概念がある。

雇用能力(エンプロイメンタビリティ: employment-ability)とは、企業が優秀な人材を雇用でき

る能力をいい、被雇用能力(エンプロイアビリティ:employability)とは、社員が既存企業または他の企業に雇用されうる能力をいう。

端的に言うと、企業が「優秀な人材を雇う価値」を持っているか?

従業員は「自分が雇われる価値」を持っているか?が問われ時代になったのである。

終身雇用、年功序列から、実力主義の世の中に変わり、会社と社員の関係が大きく変わった。これからは、ひとつの会社の中で雇用を保障するのではなくて、1人ひとりの社員が、他の会

社に行っても、雇用される力があるという状態を社会全体としてつくり、雇用の場が社会全体として確保されていくようにすることにより、一人一人の雇用の安定化を図っていこうとする考え方である。

今や、1社で終身雇用を保証することはできない。

いま、勤めている会社でしか通用しないスキルしかもっていないとしたら、その会社で雇用が保障されなくなったときは、悲劇である。

それに対して、より広く雇用される能力を持っている(エンプロイアビリティが高い)状態にするために、各個人がスキルアップに励み、また、各企業もそのような人材が定着できるように、魅力ある企業にしようと努力する。

エンプロイアビリティを高めることが、ビジネスマンの幸せに繋がり、エンプロイメンタビリティを高めることが企業の成長・発展につながる。

そのような社会では、自ずと会社のマネジメントも変わっていくことになる。

すなわち、「どうしたら、優秀な人材が自分の会社で長く働いてくれるのか」が重要な経営課題となり、優秀な人材をひきつける環境、雇用主としての魅力づくりが必須になる。

企業にとって必要な人材を維持する(確保)するための施策など(リテンション)をどうするかが、人事の課題となる。

優秀な社員の定着戦略としては、経済的リテンションと心理的リテンションがある。

経済的リテンションとは相応の報酬によるモチベーションの維持であり、心理的リテンションといは、能力開発支援策の基に、キャリアアップ、仕事と生活の調和策(在宅勤務・フレックスタイム・育児休暇など)や、表彰制度など。

すなわち

     楽しくできる仕事そのもの

     仕事をすることによる自分の能力の向上

     仕事をすることによる人間としての成長

     仕事をすることによる同僚・上司・部下からの承認

がそれにあたる。

特に、日本においては、就業環境が習熟しているため、金銭以外の、組織風土、働きやすい環境、個人のスタイルに合致した環境の提供など、個々人のライフスタイル、キャリア形成に資する仕組みの領域が求められつつある。

 

On The Business Training 協会 栗田 猛

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